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「みんなどうも、男バレ主将の及川です」

“優しく爽やかな笑顔”というのがシックリ
くる表情を浮かべながら徹が自己紹介を
すると、1年女子のうちの何人からかは
控えめな黄色い悲鳴が上がった。


あれから3ヶ月が経った。

今年も大雪を記録した宮城にもやっと
本州に比べれば遅めの春がやって来た。


数週間前に3年生の卒業式を終えて、
入学式では新しい1年生を迎え入れた。
今日は1年生が入学してから2週間。
各々が決めた部活に行く、部編成の日だ。

「女バレ主将の三浦マナです、よろしく」
「みんな入部希望ありがとねー」

普段は分かれている男女が第一体育館に
集まり、各主将が前に立っている。
数少ない男女が集まる機会だからという
ことで部編成の挨拶は一緒に、というのが
昔からの...言うなれば伝統らしい。

「今年もたくさんの子が入部を希望して
くれてほんとに感謝します、ね、及川?」
「ねっ、じゃあマネ自己紹介お願い」

徹と女バレ主将のマナが目配せする。
女バレ男バレ、合わせて4人のマネが
前へと出て、私から挨拶を指示された。

「男バレマネ3年の如月千尋です。
中学でリベロをやってたので男女関係
なく指導は出来ると思います、よろしく」

ペコリと頭を下げると、徹が伏せ目で
OKと小さく指で丸を作っていた。
...まったく、女バレ1年からキャーキャー
言われてるくせに何かムカつくわー。

「男バレマネ2年の伊原です!!」
「私は女バレマネ3年の田尾です」
「女バレマネ2年、真田です」

マネ4人が挨拶を終えるとパンパンと
徹が大きく手を叩いてみせた。
全員の視線がパッと徹に向けられる。

「じゃー、女子は第二体育館に行って!!
男子はこのままここに残っててね」

その指示にゾロゾロと女子が出ていく。
徹が残った男子に、まっすぐ並ぶように
言ってから私の方にやって来た。

「ほんと、勧誘ありがとね」
「いいってば、それもマネの仕事だもん」

さっきまでハキハキしきっていた徹は
主将モードから、オフに切り替わる。
まぁ切り替わると言っても少しだけど...
ふにゃっとした顔で笑う。

「千尋には頭が上がりません」
「ふっふっふー、苦しゅうない」

すると、徹の頭が大きな音と共に揺れた。
私は溜め息をついて目をそらす。
もちろん背後にいたのは一だ。

「油売ってねぇで、早く進めろや主将」
「痛いよ岩ちゃん!!」

見ればコートの中には整列した1年生。
私が2人を送り出せば、1年生計17人分の
少し長い自己紹介が始まる。

私は壁によしかかった。

マネ3年は自己紹介には参加しない。
伊原ちゃんは参加しているけど、私は後で
経験年数やポジションを聞きに1人1人を
回るのでその時にすればいいのだ。

「影山はいない、か...」

1年の列の中に彼はいなかった。
青城には北一バレー部OBが多く進学して
くるため、知った顔もちらほら見える。
だけど影山の姿は見当たらない。

それが吉と出るか凶と出るか...

私は大きく溜め息をついた。
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