黒バスshort.

□守るもの守られるもの/木吉
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「大丈夫だって、泣きそうな顔すんなって」

高校1年生の夏頃のことだった。
中学からの同級生で、付き合って2年
経つ鉄平がバスケの試合で怪我をした。

原因は対戦校からのラフプレー。
最初は軽い捻挫だなんて言ってたけど、
偶然、彼の怪我が重度のものだと…
もう前の様にバスケは出来ない程のもの
だと知って私は涙をこらえきれなかった。

西日の差す病室の枕元で私は
わんわんと声を上げて泣く。

鉄平が怪我をした試合を私は観ていた。
素人目にも分かるラフプレーの数々。
そしてそれら全てが審判の目に入らない
ところで行われていた。

何度息が詰まり涙が出そうになったか、
試合を見ていられないと思ったか。
傷ついていく鉄平を見るのは辛かった。
それでも、バスケを好きな鉄平を
応援せざるを得なかった。

「大丈夫だって、隠しててごめんな?」
「だって…なんで…なんで鉄平が…!」

泣きじゃくる私の頭に大きな鉄平の
手がぽんと置かれると撫でられる。
ふと、私の涙が止まった。
目元をぐいっと拭いて鉄平を見る。

「それは違うよ千広…俺は、俺はさ
日向とか伊月…あいつらが怪我しなくて
良かったって心から思ってるんだ」

そう言った鉄平の笑顔は何一つ偽りの
ない屈託の無い笑顔だった。
あぁ…ほんとに中学からのバスケ馬鹿で、
仲間思いのお人好しなんだなぁ。
でも、でもね、そんなこと言ったって…
私にとっては…

「私は…鉄平が怪我するのは嫌だよ…」

鉄平がほんとに大切で、バスケがもう
好きな様に出来なくなる鉄平を見るのは
嫌だし、不謹慎だけど…こんなに
バスケが好きでいい人がなんで怪我を…
違う人が怪我すればよかったのにって。
そう思ってしまうの。

「そりゃ俺だって怪我してよかったなんて
思ってないし、怪我したくなかった。
けど…俺はあいつらを守るエースだから」

私は鉄平の目をしっかりと見た。
なんだよ、と鉄平は笑って目をそらす。

「じゃあ…誰が鉄平を守るの?」
「…え?」
「鉄平を守るのは…誰なの…?」

鉄平の目線は布団に落ちると、ふっと
自嘲にも似た笑みを浮かべた。
私は黙ってそれを見る。
すると、鉄平の目から一粒涙がこぼれた。
そして震えた声が一言つぶやく。

「………でも、やっぱ……辛いよなぁ」

私は涙を流す鉄平を力強く抱きしめる。
私の腕の中で鉄平は黙っていた。
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