黒バスshort.

□大切だから/伊月
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ピピッと電子音が鳴って、私は脇から
体温計を取り出して確認する。
38.7℃…うわ、上がってる…

金曜日の15時を少し過ぎた頃。
昨日から体調が悪くて、朝起きてみたら
案の定、熱が出ていて一向に下がらない。
タイミング悪くお母さんもお父さんも
出張で家には私一人しかいなかった。

「あー…駄目、頭ぐらぐらする…」

ベッドから見上げる天井が歪んでる。
これは…ちょっとやばいかも。

にしても、風邪引いた時って気が滅入る。
目が覚めてみても見えるのは天井だけ
で他には誰もいないからなのかな…
あーもー…俊くんに会いたい…


俊くんと付き合い始めたのは2年の始め。
その前にも色んな人に告白されたみたい
だけど、バスケの時間を割きたくない
って断ってたってきいた。

私は元々、俊くんに片想いしてて告白
はしてなかったんだけど俊くんの
方から好きでしたなんて言われて。

なんで私は俊くんに好かれたんだろう?
誰と付き合ってもバスケの時間を
割くのには変わりないと思うんだけど…
って…考えても仕方ないか。


「デートだってほんの何回かしただけだし。
やっぱ俊くんはバスケなんだなぁ…」

私が溜め息をついて寝がえりを打つと
携帯が震えながら光っていた。
ディスプレイには俊くんの名前。
私は、慌てて通話ボタンを押した。

「えっ、も…もしもし俊くん?!」
『千広、熱は?下がってる?』

電話越しに聞こえる俊くんの声は、
何だかいつもと違って少し焦っている。
慌てたりしない俊くんが…珍しい。

「38.7℃、です」
『上がってるし…メールで38.1℃って
朝言ってたのに、つらいだろ』

私は誤魔化す気にもならなくて、小声で
つらい…と呟いてしまった。
そして、しばらく俊くんが黙る。
私は慌てて大丈夫、大丈夫だからと言った。

『…もうちょっと頑張ってて』
「ん、大丈夫だからね、ほんとに」

もう部活も始まるだろうし私は早めに
名残惜しくも電話を切った。
俊くんの声が聞けただけ良いや…
なんとか頑張れそう。

私は携帯を枕の横に置くと目を瞑った。


それからどれくらい経ったんだろう。
家のインターホンが鳴る音で目が覚めた。
時計は…17時、宅配便…とか?
私はよろける体を気合いで起こして
なんとか玄関まで辿り着いた。
そして扉を開ける。

「はい…どちらさまで…」
「千広、顔火照ってる…大丈夫か?」

私は驚きのあまり扉を支える手を外した。
そのままよろけてその場に座りそうになる。
慌てて私を支えた俊くんの腕の中に
私はすっぽり収まってしまった。

「俊くん…部活は?」
「千広が心配で早退してきた」

そのまま俊くんは私を抱き上げると
階段を上がって私の部屋を目指す。
もはや私に抵抗する力はなく、重いから…
と涙目で言うことしかできない。

部屋の戸を開けて、私をベッドの上に
寝かせると俊くんは鞄からコンビニ
のレジ袋を出して中から熱さまシートを
取り出し私のおでこに貼る。

「俊くん…ごめんねぇ」
「気にしなくていいから、早く治そ」
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