黒バスshort.

□魔法使いさんのお話/今吉
1ページ/2ページ


「私、昔すごい体験したんですよ」

体育館のステージの上。
人懐っこい笑顔を浮かべながら、今吉
の隣でパンを食べる千広とは
ただの先輩後輩関係ではあるが女バス
男バスの交流の中では1番仲がいい。

というのも千広が桐皇バスケ部
に入部したのは今吉に憧れたせい。

男女の差でチームは違うが、たまに
こうやって土日の部活の昼休憩の時に
一緒に弁当を食べる仲だ。

「すごい体験って…どないなことや?」
「私が小3の頃の話なんですけどね…」

千広はパンをしまうと膝の上に
手を置いて真剣に話し始める。
そんな姿に思わず今吉はふっと笑った。

「横断歩道で信号が青になるのを待ってて
反対側には高学年の男子が立ってたんです。
その男子が指をパチンって鳴らした瞬間
信号が青に変わったんですよ!!」

まるで本当に今でも小学生かのように
興奮しながら話す千広を見て
今度こそ今吉は盛大に吹き出した。
むっとする千広に謝まり笑いを鎮める。

千広は高1、ワシは高3。
千広が小学3年の時やから…
ワシは小学5年生っちゅーことか。

「その男子、眼鏡かけとったか?」
「遠くて見えなかったですけど…多分」

今吉はすっと立ち上がると無言で弁当箱
を鞄にしまうとその場を立ち去ろうとした。
それを慌てて千広は止める。

「何で逃げるんですか、今吉先輩!!
その男子、魔法使いっぽくないですか?」
「魔法使いって…ほんまアホやな」

きらきらした目で見上げてくる千広
の目が、ふと何かの記憶とかぶった。

「千広、女バス始まるらしいで。
そろそろ行かなあかんとちゃうか?」
「あっ、じゃあ失礼します!!」

今吉の嘘にすぐ騙される千広は
何の疑いもなしに残りのパンを口に
押し込んで礼をすると走り去っていった。
当然、今吉は女バスの予定など知らない。

「千広はほんま騙されやすいな…」
「今吉、また八重樫さんとお昼か」

振り向くとそこには今吉の同輩の諏佐。
男バス内では密かに今吉と千広が
できているんじゃないかと噂になっている。
諏佐もその噂を知る一人だ。

「千広はただの可愛い後輩やて。
そんな、取って喰ったりせぇへんわ」

笑ってそう返すと諏佐は当たり前だと
呆れて大きく溜め息をついた。
諏佐から一枚の紙が手渡される。
来週の練習試合についての日程表。

「これ、ここ間違ってると思うんだよな。
先生に確認したいんだけどコンビニ
行ってて…今吉、ひとっ走り行けるか?」

諏佐は確かこれから数学の講習が
あったはずで、今吉は大きくのびをした。

「しゃーないなぁ、ほな行ってくるわ」

Tシャツの上にジャージを羽織ると、
ステージから飛び降り体育館を後にする。

コンビニまでは学校を出てすぐの横断歩道
を渡って右に曲がればいい。
あいにく、今吉は信号に引っかかる。
ふと、千広の話を思い出した。


“魔法使いっぽくないですか?”


ジャージに突っ込んだ手を出す。
そないなこと、滅多に起こらへんやろ。
ぱちんと指が鳴れば同時に信号が青に
なり、軽快な音楽が流れ始めた。

「…そんなアホな」

今吉は頭をかいて横断歩道を渡り出す。
と、真向かいから幼稚園児とその親が
向かってきていたのが分かった。

「お兄ちゃん、魔法使いなの?」

横断歩道のど真ん中、小さな女の子は
目をきらきらさせて聞いてくる。
その目は千広の目と似ていた。
そして、また何かの記憶とかぶる。

そうか、7年前も小学3年生の同じ目を見た。
ワシは小学5年生で…
今吉はふっと笑ってしゃがむ。

「そうやで、でもな内緒やで?」

そう答えると女の子はわぁっと笑顔になる。
親に連れられて横断歩道を渡り終える頃
今吉も反対側に辿り着いた。

ぱちんと指を鳴らすと信号は赤になる。
今吉は陽気に鼻歌を歌いながら、
2人に魔法使い言われるのもええモンやな
とうっすら笑みを浮かべた。





fin.

(千広によう似た子に会うたで)
(えっ、桐皇の子ですか?)
(7年前のお前によう似た子や)
(7年前って…どういうことですか…?)
(あの頃から目だけは変わってへんのやな)
(えっえっ、なんなんですかーっ…?!)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ