amnesia(long)

□01>日常
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「アイツ...大丈夫なのかよ」

俺はゴツンとデスクに額を乗せた。
手には最新式のスマートフォン。
画面には昨日から既読無しのLINE画面。

つまるところ、出勤した朝から今まで
仕事をしつつスマホと睨めっこしていた。

トーク相手は俺の幼馴染み。
まぁ俺は返信だとかマメじゃなくて、
アイツの方がそういうことに随分マメだ。
なのに最近は既読すらつかない。


『アパレルだよ、俺にピッタリ!!』

俺の幼馴染みである及川徹は、大学の
卒業間近にそんなことを言っていた。
アパレルだかアパマンだか何だか知らんが
洋服やデザインなどのオシャレ系らしい。

まぁ確かに及川は、女子に囲まれてたし
本人も服装に無頓着というわけでもなく。
案外キャラに合ってるなとは思った。

俺は就職難の中、運がいいことに大手電機
メーカー...二菱の営業課に就職。
22歳で大学を卒業して、今は24歳。
仕事にも慣れてきて今年の春には新卒の
後輩達も入社してきて、まぁ充実してる。


が、問題は及川だ。
それはお互い就職してからすぐだった。

『岩ちゃーん、ここブラックだよー...!!』

泣きながら電話をかけてきたのである。
聞けば入社してすぐだと言うのに、先輩
からは難しい仕事を丸投げされたり
仕事の量がやたらめったら多かったり。
残業は当たり前、小間使いがやたら多い。

まぁ、社会に出たんだから仕方がないとは
思ったし、実際俺だって嫌なことはある。

だが俺の知ってる及川は、やわなことで
泣きながら電話までかけてこないし、
そもそも、弱音を吐かないような奴だ。
よっぽど理不尽な会社なのだろうか。

その時は夜に及川の家へ行き、晩御飯を
作ってやり、愚痴も聞いてやった。
すると、頑張る...と言っていた。


「はぁ...LINEも見れないほど忙しいのかよ」

俺はスマホをスーツのポケットに入れて
再びパソコンへと向かい合った。
相当忙しいのか...無理してねぇかな。
アイツ無駄に責任感強ぇから。

キーボードを打つ手がふと止まる。
...あー、なんかもう気がかりだ。
何だかんだで1週間はまともに連絡取って
ないし、電話も会ったりもしてない。

アイツちゃんと飯食ってんのか?
つーか家にそもそも帰れてんのか?
寝不足で倒れたりしてねぇよな?

「......はぁ」

俺は大きく溜め息をついて立ち上がった。
デスクの上に置いてある煙草とライターを
持てば、周りの仲間達も怪しまない。
オフィスを出てそのままトイレへ向かう。

道すがらスマホで及川の勤め先の電話番号
を調べて、発信ボタンを押した。
数回コール音が鳴って回線が切り替わる。

「どうも、お忙しいところ失礼致します。
二菱電機営業担当の岩泉一と申します。
先日させて頂きましたお話を、そちらの
及川さんに繋いで頂きたいのですが...」

そう言うと、対応相手はお待ち下さい
とテンプレセリフを言って保留にする。
俺はそれからかなり待たされ、あぁ確かに
ブラックも頷けるな...とトイレで思った。
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