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□1、Greetings and Resume
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「お願い!入って!」
「嫌だ。いい加減諦めろよお前…」
「お願い!入ってくれたら諦めるから!」
「そんなん諦めるって言わねぇよ!」

あーあ、また今日も断られちゃった。
いい人材だと思ったんだけどなー。
まぁ、諦める気はないけどね!

僕は葉月渚。岩鳶高校一年生。皆と水泳部を作って、鮫柄学園との合同練習の約束を取り付けたまではいいけど、そこでは最低でも五人は必要だといわれてしまった。
そこで、陸上部の竜ヶ崎怜君を何とか説得して、四人揃った。でも、もう一人必要で、その人が中々折れてくれない。
その人は、五十嵐観月、僕より一つ上の学年の二年生。前に隣町のスイミングスクールに居て、大会とかで活躍していたのは覚えてるから、速さは保証できる。凄く綺麗な泳ぎで、無駄がないって感じ。なのに、中学二年の時から、スイミングスクールも退会して、競泳はやってないらしい。今は竜ヶ崎君と同じ陸上部で長距離を走ってる。もったいないなー、まるで遥みたい。
鮫柄との合同練習はいよいよ明日。だから今日中に説得しないといけないのに。
でもまだ朝だし、放課後まで頑張れば何とかなるはず!
よし、頑張るぞー!

はぁ、やっと帰ってくれた。
あんなしつこい奴そうそう居ない。毎日どころか毎時間の様にやってきやがる。
俺は今のところ競泳に関わるつもりはないし、それ以前になんであいつが、俺が競泳をやっていたことを覚えているんだ。もう何年も前の事だぞ、普通忘れてるだろ。でも俺はあいつの事を、いや、あいつらの事をハッキリと覚えている。
小学六年の時のあのメドレーリレー、凄く感動した。綺麗だった。俺も一緒に泳いでみたいと思った。無理なことはわかっていたけど。あの時は本気でそう思った。
そのリレーメンバーのうちの一人が渚だ。後の三人の中で、二人はこの高校、俺と同じ二学年の同じクラスに居る。七瀬遥と橘真琴。もう一人は水泳の強豪校、鮫柄の松岡凛。凛は同じ佐野スイミングスクールに行っていたからよく覚えている。あの四人の泳ぎは忘れようとしても忘れられない。
とにかく、俺は、水泳部に入る気はない。

今は放課後、仮入部の竜ヶ崎君も誘ってこれから下校。
休み時間の度に頑張って誘ってるのに、観月ちゃんはさっぱり相手してくれなかった。困ったなー。
「渚、あと一人、当てがあるって言ってたけど、大丈夫?」
まこちゃんがそう聞いてくるけど実際大丈夫じゃない。折れてくれない。
正直にそう言うと、怜ちゃんが、
「誰を誘っているんですか?」
と聞いてくる。
「二年の五十嵐観月ちゃん」
「え、それって確か…」
急にまこちゃんがびっくりした顔をして続ける。
「同じクラスだったような…」
「え!?それならもっと早く言ってればよかったー!」
そこで怜ちゃんが口をはさむ。
「でも陸上部に入ってますよ?」
「それは大丈夫!怜ちゃんだって陸上部だし!」
「何が大丈夫なのかさっぱりわかりません!」
何とかなるとおもうんだけどなー。
いざとなったら兼部も出来るし。
あ!良い事思いついた!
「怜ちゃん、観月ちゃんを説得してきて!」
「はい!?」
「怜ちゃんなら出来るよ!だって同じ陸上部だし、頭良いし」
「無理です!」
「まず僕が観月ちゃんを見つけるから、そのあとはよろしく!」
何か言ってるけど関係ない!
早速レッツゴー!

毎時間の様にやってくる渚を上手くかわし、やっと放課後、部活の時間。
今日は長距離のコーチが居ないので、各自自主練になっている。
流石に部活の時までは来ないだろう、そう思った俺が甘かった。
「あーっ!観月ちゃん!探したよー!」
今一番聞きたくない奴の声だ。
そういえば棒高の怜に会いに来てたことがあったっけな。忘れてた。
本当にストーカーか此奴は!
半ば呆れながら渚の言葉を右から左へ聞き流し、構わずストレッチを続けていると、最近よく聞くようになったもう一人の声がした。
「五十嵐先輩、棒高の竜ヶ崎怜です。」
竜ヶ崎か、棒高の方でよく見かける。学年も種目も違うにしては、話す回数も多い方だ。
「あぁ、どうかしたか?」
「実は、僕、水泳部に仮入部したんです。」
「…え!?」
驚いた。前話した時は、あんなに水泳を毛嫌いしていたのに。
「本当か?」
「ええ、それで、五十嵐先輩も仮入部でいいので、合同練習に参加して貰えないかと思いまして」
なんで俺なんだ。絶対渚の作戦だろ。
だが、同部の後輩の頼みを無下に断ることも出来ず、曖昧な返事をしてしまう。
「お願いします!」
頭まで下げて頼まれると、断りにくくなってしまうじゃないか。
なかなか返事を言えないでいると、渚が、
「ほらまこちゃんも、はるちゃんも、江!一緒にお願いして!」
どうやら他の三人も一緒に来ていたようだ。
「お願いします!」
ここまで必死に頼まれたら、断れるはずないじゃないか。
まぁ、仮入部だし、嫌ならいつでも辞められるし、そう考えて、
「わかった、仮入部だからな。正式に決めた訳じゃないぞ」
あーあ、言っちゃった。後で後悔しても知らないぞ、俺。
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