どり

□熱く甘いキスを5題
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3.唇から伝染する


ゆっくりと触れ合わせる唇。それは甘くて、それ以上に苦くて切ない。

唇が離れた。彼は何事もなかったかのようにまたなと言って去っていく。

それを見送りながら、私は唇に触れる。

「冷たい…」

彼とのキスは冷たい。熱いはずの行為さえ、冷たく感じる。

彼が見えなくなっても私はその場から動けなかった。彼にとって私は遊び。彼の本命は別にいる。

気持ちの伴わない虚しい行為に苦しくなる。でも、私は彼が好き。だから、どんな立場でも彼と過ごしたかった。


ぼんやりと立ち尽くす。すると、ぽつりと頬に冷たい雫が落ちてきた。それを合図に次第に雨足は強くなる。

空は明るい。だからキツネの嫁入りだと思う。ただの通り雨。でもその雨のおかげで私は涙を隠せた。


雨の中で立っていた。すると腕を引かれ誰かの腕の中に閉じ込められる。

「一人で泣くな」

そう言った声は私と彼との関係を知っている唯一の存在。クラスメートでよき友人。

「泣いてなんかない」

そう呟いた声は湿り気もなにも帯びてなく。普通と変わらない声。

でも、目からは雨とは違う温かいものが流れていて。

それを見ないように彼は自分の胸に私の頭を押さえて。そしていつも静かに私が泣き止むのを待ってくれる。

いつからだろう?私が辛くなるとそれを察したように抱きしめて泣かせてくれる。彼との一時の愛のない行為の後は必ず私を抱きしめる。

最初は偶然だった。多分次も偶然。でもそれからは必然で。話してないのに察して、彼と別れるお決まりの場所で立ち尽くす私を優しく抱きしめる。

その行動の意味を知らないわけではなく。ただの友達として彼が私を慰めているわけではないのは気付いていた。

彼に対して酷いことをしているのを知りながら、私は彼に甘える。


泣き止み、小さくお礼を言って離れようとする。いつもは簡単に離してくれるのに、今日は違っていて。

「あんな男忘れろ」

初めて彼が慰めじゃなく自分の望みを込めて発した言葉。それに離してくれない腕。

「忘れてしまえ」

そう言って私の顔を上げさせて唇を塞いだ。

そこから感じるものはさっきのような冷たいものではなく。彼の気持ちそのもののような熱い熱を発していて。

それが嫌ではなく。むしろ凄く心地いいものだった。

その熱をもっと感じていたくてされるがままでいたら、彼は不思議そうに唇を離した。それが寂しくて私は離れる唇を追いかけるように自分から彼の唇に押し当てた。

それに彼は一瞬固まるけど、すぐにさっきのような熱いキスをくれて。そのキスは雨が止むまで続いた。


唇を離し、私は彼にもたれる。

「忘れさせて。跡部の熱で」

そう呟くと、彼は抱きしめる腕の力を強めてきて。

「ああ、忘れさせてやる」

そう言って優しいキスをくれた。熱く、そして限りなく甘いキス。


跡部との最初のキスで彼の想いが熱として伝わり、それが私に伝染した。

『恋』という名の熱として…
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