どり
□拝啓、きみ 〜手塚ver〜
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4.声が聞きたい
そろそろ限界がきていた。曖昧な態度で延ばしていたお見合いの話。それにいい加減に向き合わなければいけなくなってきた。
どうやら、俺の相手は結構いいとこの人らしい。そして、俺を気に入っているとも聞いていた。だから話を延ばしている俺に対して、そろそろ会えないかと言ってきた。
どう断ればいい?
それに頭が支配されていた。断ることは簡単だ。だが、お世話になっている方の顔をつぶすようなことはできない。それを考えると、どう断るのが一番いいのか分からない。
一度でも見合いを受ければいいのかもしれない。だが、そうすると後々面倒になるだろう。
会うだけで接点ができる。接点ができると色々と話しが出てくるだろう。
それに例え上手い具合に断られたり断ったりできたとしても、次の話が出てくる可能性が高い。
「本当にどうすればいいんだ…」
好きな人がいると正直に伝えるべきなのか?だが、あいつに迷惑はかけたくない。
ぐるぐると回る思考。答えが出ないその問題に頭が痛くなってくる。
声が聞きたい。あいつの声が…
そう思った瞬間、俺の手は電話に伸びていた。そして押しなれた番号を指でたどる。
コール音を聞きながら、自嘲気味に考える。最近はよく電話している。どうしても声が聞きたくなってしょうがなくなる。
それはあいつと話していると落ち着くから。安心できるから。
悩みが解決するわけではないけれど、どうしようもなく逃げたくなると電話をかけていた。
昔と一緒だ。俺はあいつに逃げている。
自嘲していると電話からあいつの声が聞こえる。それだけで、頭痛が軽減する。
「すまん、寝てたか?」
日本ではもう夜中だ。こんな時間に電話するなんてなとさらに自嘲するが、あいつの声は普段と変わらない明るい声だった。
多分俺が何かに悩んでいるのには気づいているのだろう。だが、何も聞いてこない。ただ、俺が落ち着くまでたわいもない話に付き合ってくれる。
それに救われる。
声を聞くだけで苦しみが和らぐ。逃げていると分かっていながらも、あいつの声が聞きたかった。