どり

□拝啓、きみ 〜手塚ver〜
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3.伝えたい言葉

「Happy birthday!!」

そう言って乾杯する。今日は俺が生まれた日。そのため、親しい友人や知人を集めたパーティーが開かれている。

あまり気の進まないものだった。誕生日ぐらいゆっくりとしていたかった。

祝ってくれる気持ちは嬉しい。だが、一人になりたいという気持ちが大きかった。

「部長、おめでとうございます」

越前がお酒が入ったグラスを持って側に来る。そして軽くグラスを合わせた。

「ありがとう」

そう言って笑うと、苦笑された。

「俺の前では無理して笑わなくていいっすよ。大変なんでしょう、今」

そう言ってチラッと向ける視線の先に、お見合いを持ってきた人がいた。それに越前があの話を知っているのに気づいて俺も苦笑する。

「どう断ればいいんだろうな」

思わずというような感じで言う。それに越前はさらに苦笑して隣に座った。

「好きな人いるんっすよね?」

確信めいた言葉に軽く驚くと、「悩んでいる内容が内容っすから」と言ってきた。それに困ったようにしていると、楽しげに笑った。

「告白しないんっすか?」
「…してもいいのかわからない」

正直に話すと不思議そうに見られた。それに苦笑してグラスを傾ける。

俺とあいつは一度自分の感情から逃れるためにキスをした。俺はそれが過ちだとは思っていない。だが、あいつはどうなんだろうと考えると、どうしても気持ちを伝えることができなかった。

嫌われてはいない。それはあいつの態度から分かる。親しい友人として長く付き合ってきた。だから、嫌われてはいないんだ。

だが、俺達は恋愛に関してお互いに線を引いている。相談も話題として出すことさえしなかった。だから不安になる。あのことを後悔しているんじゃないかと。

もしあいつが後悔していたら?あのキスの記憶を奥底に沈めていたら?

それを思うと告白していいのか分からなくなる。あいつを苦しめたくないから。


「ずっと気持ちを隠しておくんっすか?」

静かな問いに視線を越前に向ける。そして首を振った。

「わからない。でも今は伝えることができない」

覚悟ができてないから。そう言外に伝えるとため息を吐かれた。

「まあ、俺にはあまり関係ないんでいいんっすけど。でも、それがテニスに影響でないようにしてくださいね。あんたは俺のライバルなんっすから。弱いあんたとは戦いたくないんで」

そう言って離れる越前に苦笑して礼を言う。越前なりの心配の仕方が、逆にありがたい。



人混みから少し離れた場所に行く。越前の言葉に後押しされた感じがあるが、今は素直にあいつに言葉を伝えられそうだった。

「もしもし?」

電話をかけると軽く慌てた声で電話に出た。それに眠ってたのかと思いながら「俺だ」と伝える。すると軽く笑いながら突っ込まれた。

「俺だじゃわからないわよ?」
「…気づいてるだろう」

あいつは気づいている。だから俺だと言ったのに、突っ込むのかと思って拗ねてしまう。それに気づいたのか小さく笑ったのが聞こえた。なんとなく悔しくてふて腐れる。

むすっとしていると、今度はからかいも何も含んでいない声が聞こえてきた。

「久しぶり、手塚。誕生日と優勝、おめでとう」

たったそれだけ。だが、それで気持ちが浮上する。誰に言われるよりも嬉しい言葉。そんな自分に内心で苦笑しながら、俺も素直に感情を乗せて言葉を伝える。

「ありがとう。お前も、誕生日おめでとう」
「ありがと」

嬉しそうな声になる。ああ、やっぱり嫌われてはいない。それを確認できた。


「で、何かあった?」

小さな幸せに浸っていると、そう聞かれた。それにため息を吐く。どうしてそう言ったのか分かるが、それでもやっぱり寂しい。

「何かないと電話したらいけないのか?」
「別にそうじゃないけど…今日、手塚の誕生日だから忙しいかなって思って」

思ったとおりの理由を述べる彼女に苦笑する。当たっていることが嬉しくて、そしてあいつも俺のことを考えてくれているということが分かって喜んでいる自分に苦笑した。

もう、今日は素直になるしかないか。

そう思ってゆっくりと言葉を紡ぐ。

「おめでとうと、伝えたかっただけだ」

そう言うと電話の向こうで言葉に詰まったように息を呑んだのが聞こえた。普段は滅多に見せない(聞けない)ものに嬉しくなる。それが自然と声となって出ていた。

久々に心から笑う。悩んでいたことを忘れて、今はこいつとの会話を楽しんでいた。


電話してよかった。おめでとうと伝えられてよかった。

素直に伝えるとこんなにも心が温かくなるのか。そう思うといつかは本当に伝えたい言葉を伝えられそうな気がした。
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