どり

□拝啓、きみ 〜手塚ver〜
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2.笑うことができるのは

「そういえば最近、また笑わなくなったっすね」

いきなり越前にそう言われたが、驚くよりもそうだなと同意してしまった。

自分でも分かる。作り笑いしかしていないと。それでも親しい人にしか気づかれない自身はあった。会見や雑誌に出演するたび、笑みを浮かべることにも慣れ、自然とそういう場所では笑うようになった。

だから、たとえ作り笑いだとしても自然と浮かべているその笑みの違いを簡単に悟られることはない。本当に親しい人達以外には…


ふと思い浮かんだのはあいつの顔だった。異性として一番親しい友人。もしかしたら全ての友人の中でも一番親しいのかもしれない。

あいつだったら気づくだろうな…

そう思うと気づいてくれるという嬉しさと心配かけるだろうという申し訳なさが生じる。

好きだから気づいて欲しい。

好きだから心配かけたくない。

少し複雑な感情が浮かび苦笑してしまう。それに越前は気付いたようで、小さく笑いながらあまり無理はしないで下さいよと言って帰っていった。


一人になって、あいつのことを考える。最近特に考えてしまう。それは笑わなくなったことと関係しているのはよく分かっている。

「はあ…」

どうすればいいんだろうか?考えれば考えるほど分からなくなっていく。

今、俺はお見合いをさせられそうになっている。最初は断ろうとしていたが、中学を卒業してから多大にお世話になっている人だからなかなか強く断ることができない。

好きな人がいる。そう言いたいが、言ったらいけない。俺の側にはマネージャーがいる。

マネージャーとしては申し分ない人だ。だが、俺が好きな異性がいると聞くだけで詮索してくるだろう。どうやら彼女は俺のプライベートまで入り込んでくるような人だから。

そこに俺に対する恋愛感情はない。それは分かっている。だがどうやら、自分の息子のような感じがしているらしく、そういうところまで踏み込んでくる。

そうなるとやっかいだ。いい人なんだが、おせっかいすぎる傾向がある。

言った後を考えると、な…

ため息が漏れる。


どうしたら上手く断れるのだろうか?もともと口下手な俺だ。上手い断り方なんて知らない。

ここ最近ずっと悩んでいること。俺はあいつ以外の奴と付き合うつもりなんてない。それをあいつのことを隠してどう伝えればいいのだろうか?

「Mr.Teduka」

答えが出ないものを考えていると悩みを持ってきた人物に声をかけられる。それに笑みを浮かべて彼の相手をする。

今も作り笑いをしているな。そう感じて少しだけ苦しかった。自分を偽るのは精神的に疲れる。

会いたい。あいつに会えば俺は自然と笑みが浮かぶのに。作り笑いではない、俺が心から浮かべる笑みを…

胸に渦巻く感情を隠しながら、俺は遠い日本にいる大切な人を思い浮かべていた。
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