どり
□一言にときめく5題
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「どうした?」
不意に上から声が聞こえてきた。見上げると中庭に面した校舎の窓から国光が覗き込んでいた。
今は授業中なのになんでそんなところにいるのかとか、なんでそんなにタイミングよく現れるのかとかいろいろ聞きたいことがあった。でも言葉にはならず、腕を伸ばして国光に抱き着くしかできなかった。
ただでさえ身長差があるのに校舎と中庭という互いの位置のせいでさらに抱き着きにくくなる。国光がかがんで頭を包み込んでくれているけど、間に挟まれた壁のせいで体勢は互いにきつい。
しばらくそのままでいたけど、辛いからと身体を離す。すると国光は窓から外に出てきて私を抱きしめてきた。
ぽんぽんと頭を撫でながら優しく耳元で囁く。
「辛いか?」
その言葉はこれから先のことを示していた。遠距離で付き合うのは辛いかと…
「辛い、だろうね…」
小さく呟いてからギュッと国光に抱き着く。
「でも別れることは考えられない。国光がドイツに行くのを引き止めたいとも思わない。笑って応援したいって思ってる」
それは本心で、でもできるか不安で…そんな気持ちは国光には筒抜けでそっと顔を持ち上げられる。そして触れ合う唇…
「待ってろ」
近距離で見つめられながら言われる。
「早く迎えにくるから。それまで何でも言ってきていい。我慢せずに俺に文句を言え。そのかわり待ってろ。プロになっておまえを迎えにくるその時まで待ってろ」
国光がくれる言葉達。プロポーズのような甘く大変な言葉に涙が零れる。
嬉しかった。だから必死に頷く。言葉にならない想いを伝えるために何度も何度も。それを止めたのは国光がくれた優しく長いキスだった。
自然と不安が薄れていく。待ってろというただ一言が嬉しくてたまらなかった。愛されてるってよく分かった。
授業中にも関わらず中庭でいちゃつくその姿は、偶然発見した人達によって次の休憩中には全校に知れ渡っていた。手塚がプロポーズしたという噂と共に…