どり

□一言にときめく5題
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1.おいで / 来いよ

私には恋人がいます。照れ屋で言葉は悪いけどとても優しい彼。カッコイイし大切にしてくれているから不満なんてない…といえないのは私の我が儘でしょうか?

彼の名前は宍戸亮。私が通う氷帝学園の3年生です。私は2年で学年が違うのに付き合うようになったのは私が一目惚れしたから。

急いでいて慌てて廊下を歩いて(むしろ走って)いたときに宍戸さんにぶつかってしまいました。そのときに怒るでもなく苦笑したような笑みを浮かべて「大丈夫か?気をつけろよ?」と言って下さったときに惚れてしまいました。

その後、声をたびたびかけて下さって、いつの間にか仲良くなり、私から告白して今に至ってます。

本当に優しくて大事に大事に扱って下さる宍戸さん。それに何の不満があるのかってお友達は言います。ですが、私にしたら大切にされすぎて物足りないのです…

付き合い始めて一ヶ月経ちます。デートも宍戸さんの部活がお休みの時に何度かしています。ですが、未だに手を繋いだことがないんです。

キスや抱きしめてもらうことがないというのはまだ早いからと思えるのですが、手を繋がないというのは淋しいです。でも、宍戸さんはとても照れ屋ですから、しょうがないことなのかもしれません。そう思って今は諦めていました。


今日は部活が早く終わるということで一緒に帰るという約束をしてました。ですから、少し時間が経ってからテニスコートに向かいました。

「宍戸さん」

声をかけると少しだけ照れたような優しい笑みを浮かべて「もう少し待ってろ」と言われました。それに頷き、大人しく練習風景を見てますと、宍戸さんのお友達の忍足さんという方が近付いてきました。

私は噂などには疎いためお友達には驚かれたのですが、宍戸さんを通じて忍足さんのことを知りました。それが新鮮らしく、忍足さんはよく話しかけてくれます。今日もそれかなと思い軽くお辞儀をしますと、にこやかに話しかけてきました。

「今日も宍戸とは仲良えなぁ」

その言葉に照れながらも頷くと「可愛えなぁ」と頭を撫でてきました。男の人にそんなことをされるのは血縁者以外にいませんでしたので顔が熱くなります。

「なんや、宍戸にはこうされんのか?」

その質問がスキンシップ全般を含んでいることに気付きました。ですから少し困ったような笑顔を浮かべました。すると、忍足さんはよしよしというように頭をまた撫でてきます。

「忍足!」

そんな私達を見たのか、宍戸さんが今まで聞いたことのないような厳しい声を出しました。それに驚いていると、グイッと腕を引っ張られ身体が温かく広い腕の中に包まれました。

驚きと恥ずかしさだけでなく、強く抱きしめられているため宍戸さんの腕の中で動けません。その間に、宍戸さんと忍足さんは何か話していましたが、心臓の音がうるさくてその言葉は頭に入ってきませんでした。

しばらくして忍足さんが離れていきました。すると空気が耳元をくすぐりました。

「しっ、宍戸さん…?」

多分真っ赤な顔で宍戸さんを見上げます。目が合うと宍戸さんはバッと離れていきました。

宍戸さんも真っ赤な顔になっています。そして慌てたように口を開きました。

「わ、悪い!」
「…何で謝るんですか?」

謝られる理由がわからなくてそう聞くと、困ったような表情になります。

「嫌じゃ、なかったか?」

宍戸さんの言葉にキョトンとしてしまいました。好きな人に触れられるのが嫌な人なんていません。そう思って見ると、さらに困ったように頭をかきます。

「怖くはなかったか?」

怖く?そんなことは…

「宍戸さんを怖いと思ったことはありませんよ?」

そう言うと少しホッとしたような困ったような表情を浮かべました。ですが、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべました。そして同じように優しく頭を撫でてきました。それは忍足さんとは違ってとても嬉しく、そしてドキドキするものでした。

「着替えてくる」

そう言ったのは頭にあった手を離した後でした。それに頷き、宍戸さんが部室へ向かう姿を見送りました。


宍戸さんはすぐに着替えて近付いてきました。その後ろから宍戸さんをからかうような声が聞こえてきました。それに宍戸さんは顔を赤くして怒鳴りながら、私の横を通り過ぎました。

照れているだけだとわかっているので、小さく笑みを浮かべながら宍戸さんを追いかけようとしたときでした。不意に宍戸さんが立ち止まり、手を差し出してきました。

「来いよ」

照れながら、でも優しい笑みに嬉しくなり笑みが零れます。小走りで近付き、差し出された手に私の手を重ねました。すると、その手をキュッと握り返してきました。

繋がれた手は温かく大きいもので、宍戸さんのことを新たに知ることができました。ドキドキするけど、その心臓の音は心地よかったです。
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