広がる天の川

□春の四阿で
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あそこにいらっしゃるのはもしかして?

水月様と方淵様がご一緒のお姿を拝見出来るなんて、なんて今日はよい日なのでしょう

女官達の柔らかな噂話を耳にしながら回廊を渡る。

狼陛下の妃は連日の仲裁にそんな甘い思考は考えられないが、そんな毎日でも春は少しずつ色づいてきている。

今日は久しぶりに侍女達と四阿でお茶を楽しんでいた。木の花は早いものは綻んで、水仙など春の花も目を楽しませてくれる。

お茶を飲みながら他愛ないお喋りをするのはやはり楽しい。

私はやはり柔らかな雰囲気の水月様ですわ

水月様も良いのですが、誠実そうな方淵様の横顔も捨てがたいと思いますの

(うん、まぁ、黙っていればね)

一昨日に陛下を挟んだお二人を見かけ眼福でしたわ

まぁ、それは素敵でしたでしょうね。羨ましい

妃に遠慮はしているものの実際には陛下も女官には人気があるのを知っている。
しかしやはり狼陛下のイメージが定着しているので、遠目から見るならということらしい。

私は陛下の側近の李順様も素敵だと思うのです

「え?」

思わず何故か聞いてみると理知的な眼鏡の似合うところが素敵だとか。

(遠くから見る分には…)

近づけない殿方への憧れを語り合うのは庶民も貴族も差がないんだなぁと微笑ましく夕鈴は思う。

そんな淡い想いたちが巡り巡って愛する人の元へたどり着くのだろうか。
微笑ましく話している侍女達にもどうか素敵な殿方と幸せになってもらいたいと思う。

お妃様はどうでしょう?

そうですね、皆様それぞれに良いところがあるとは思いますけど…、私はやはり陛下が一番素敵だと思います

やんわりと妃らしい回答を返すと、まぁ…お妃様らしいと微笑まれ恥ずかしく思うが嘘ではない。

本来なら言葉を交わすどころか、遠くからすら拝顔も叶わない雲の上の存在。

侍女達に返事をしながらそう思うと切なくなってくる。

見上げると次々に綻んで咲いてゆく花花をいたずらに風が撫でてゆく。
風に吹かれてハラリと散り行く花びらのように私の想いだけは届かずに流れてゆくのだろう

あ、お妃様。あちらに陛下が渡られますよ

そっと侍女が教えてくれた先には愛しい陛下がこちらに気づかずに官吏と話ながら回廊を渡ってゆく。

(あぁ、やっぱり陛下が好きなんだなぁ…)

胸に広がる切ない気持ちを持て余して扇の下で小さなため息をつく。

振り返ると侍女達はニコニコと微笑んで。

お妃様、今日は三温糖の干菓子と桜餡の花菓子が届いておりますわ

優しく気遣ってくれる侍女に夕鈴は泣きそうな笑顔で微笑んだ。

ありがとうございます、それならお茶は緑茶の方が良いかしら…

春の宴の頃にはこの花花が満開に咲きほころんでいるのだろう。

end
20130309



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