PHOENIX MYTHOLOGY〜転生神話〜

□参――コーネル 2
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――ユリガル国 サウス・サンスーシ


「あぁ〜……暇」


ローズは人工庭園の芝の上に体を転がし、誰にともなく悪態をついた。
まるでやる気の欠落したローズの様子を見た護衛役のフィルスは、その呆れを多分に含んだ顔を隠そうともせずに、わざとらしく溜め息をついた。


「その様なことをおっしゃるくらいなら、レイディン様のお手伝いでもなされば宜しいでしょう。
困ってらっしゃいましたよ、人手が足りないと」


執政に携わっていた重役三人がいないのですから、という護衛役の諫めに対し気だるげな表情を向け、仰向けていた体をコロリと四十五度回転させてからローズは再び口を開いた。


「それはそれでめんどくさいから、嫌」


「……」


フィルスはいつも以上にワガママなローズに些か呆れと共に苛立ちも積もって来たが、今まで培ってきた己の対ローズ能力を発揮し、外面には全くその様な素振りはおくびにも出さず、胸中でこう対称的な兄妹も本当に珍しい物だなと考えながら自らを落ち着けた。


そこへ無機質な機械音が急に鳴り響いた。
どうやら各部屋に一つ備え付けられている遠距離通信機のようであった。
フィルスは未だ無機質な音を鳴り響かせている機械に歩み寄るとその受信部を耳に当てた。
すると直ぐに対応にあたっている女性がローズへの通信であることをフィルスに告げた。
了解したフィルスは受信端末越しの対応官に待つように告げると、未だ芝の上で無気力に身体を四十五度に倒し、フィルスに背を向けているローズの方へと歩み寄った。


「ローズ様、どうやらローズ様への通信のようです」


ローズはその言葉に訝しげな表情を浮かべ、気だるげにゆっくりと上体を起こしフィルスから受信端末を受け取り傍目にもそのだるさがはっきりと見て取れる体で対応官と話をしていた。

そんなローズを苦笑してみていたフィルスは不本意にもびくりと身体を反応させることになる。

――次のローズの声によって。

一方ローズはローズで目を見開き叫ぶ羽目になる。

――取り次がれた受信機によって。


『あ、ローズ様ですか?
リースですが』


「リース!?」


ローズは今一番求めていた声を耳にし、思わず大声をあげてしまったのだ。
よって、直ぐそばに立っていたフィルスは肩を震わせる結果と相成ったというわけであった。


『……っ、そんな大声を出さないでください。
耳がおかしくなる』


「あ……、ごめん。
つい嬉しくて……」


茹でられた鮹のように真っ赤になって通信を行うローズにフィルスは気付かぬうちに口元を緩め、いつもああであれば可愛いのになと思い、はっとして即座に自分は何を考えているのかと頭を左右に数回振り思考を払い落とした。


「で、どうしたの?
リースが連絡してくるなんて……。
それから敬語」


『いや、そちらは無事でいるかと思って。
でも、心配は要らないみたいね。
安心したよ』


リースは端末越しではあるが、ローズの赤くなっているであろう顔をありありと思い浮かべることが出来、頬を綻ばせた。

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