PHOENIX MYTHOLOGY〜転生神話〜
□伍――帰結=始原 3
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一瞬の甘さがミスを招いた。
陰打ちが有ることなど、刺客との闘いでは念頭に置いて然るべきことだ。
そんなセオリーも忘れるなど、セスナへと全てを暴露したことで、自分でも感じずに神経が高ぶっていたのか……全く見誤っていた。
恥ずかしいことに、自分の顔に向かってくる暗器を見た時、とっさにもう終わりだと、瞳を固く閉じでしまった。
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リースは来るべく衝撃に瞳を固く閉じていたが、一向にそれはやって来なかった。
それどころかやって来たのは痛みではなく、暖かく心地よいぬくもりと爽やかな香りであった。
不可思議な感覚にリースはそろりと瞳を開け、ぎょっとした。
「イザーっ!」
見ればそこには剣を片手にリースを抱き寄せているイザードがあった。
暗器が直ぐ隣に落ちている事から、イザードの剣が暗器を打ち落としたようだ。
リースが驚いた表情でイザードを見つめているとイザードはそれに気付いた様で声をかけた。
「無事か?リース」
イザードの強い腕と瞳、流れ落ちるお互いの汗、感じた人の温もりに胸が熱く高鳴るのを感じた。
胸が苦しくなったが、今の状況を思い出し、はっと男の方へと視線を向けた。
幸い男もまさかイザードが乱入してくるとは思っていなかったようで、ぽかんと唯一露出されている目を間抜けに開いていた。
リースは今が機と剣を握り直し、男の方へと走りだす。
男も気を持ち直して剣を握り直し応戦してきたが一歩遅く、上手くスルリとかわしたリースは一撃を胴に打ち込んだ。
ズルリと男は崩れ、地と抱き合う形で倒れた。
それを見届け、息をついたリースはイザードの元へと戻り、膝をついて頭を垂れた。
「何と申し上げればよろしいか……。
御手を煩わせ申し訳ございませんでした。
そして、助けて頂きありがとうございました」
「気にしないで。
こちらからはあの男が最後の一つを投じるのがはっきりと見えていたから」
イザードはにこりと公衆の前では立派な皇太子な対応をしてみせた。
が、リースを立たせるためにしゃがみ、両腕に己の手を当てた時に耳元でいつもより低温で艶の有る声で囁いた。
「リースのためなら全てを投げ打ってでも助けるさ」
非常に厄介なモノ。
リースは僅かに顔を赤くし、イザードはそれを楽しそうに見やった後、表情を固くして視線をセスナに向け、囁いた。
「最後の締めだ」
リースも表情を引き締め立ち上がり、再び瞳を見開いて震えているセスナへと近付いた。
「あなたで終わりです」
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