PHOENIX MYTHOLOGY〜転生神話〜
□四――思慕 3
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リースが哨戒を兼ねて休憩に外へと出た部屋ではイザードとキーシュが革張りの椅子に腰を落ち着け各々の思考にふけっていた。
キーシュがふと隣に目をやると、長い足の上に肘を置き、長い組んだ指の上に前のめりなるようにあごを置いて哀愁漂う雰囲気を醸し出している息子が目につき、何か思いついたようににやりと頬を上げた。
わざとらしく明後日の方向に目を向けると口を開いた。
「しかしイザード、お前がリースに想いを寄せていたとはな。
驚いたぞ」
「……は?」
いつになくいやらしくニヤニヤと笑う父王のあまりにも突飛な言に、これまたいつになく間抜けな表情に皇太子はなる。
その表情に満足したのかキーシュは昔を懐かしむように目を細め遠くを見つめた。
「何せ出会った当初はあんなにお互い反りがあってなかったのだからな。
まあ、直ぐに誤解はとけていたようだが」
本当に微笑ましい事だ、と一人で納得するキーシュにイザードは焦りをみせた。
「ち、父上。
何をいきなりっ」
焦りからか照れからか、イザードは口元を袖で覆い隠した。
「隠すことでもないだろう。
私もリースならば文句なし。
どころか大賛成だ」
「……」
今にも親指を突き出してきそうな無駄にキラキラしたキーシュの笑顔に、イザードは頭を抱えたいのを我慢して溜め息を一つ零した。
このまま話を続けていけば確実にからかわれると確信したイザードは尤もらしい言葉で流れを変えようと試みた。
「……そんなことより父上、今は外に気を配っていた方がよろしいのでは無いでしょうか……」
イザードはそう言うと外に目を向ける。
イザードの言はキーシュの気を逸らすことに一応は成功したようで、碧い瞳が向けられている窓に紫の視線も加わった。
外は今朝方から降り続く雨により暗いままであるが、更にその闇を増したと思うのは只の気のせいであろうか。
時計を目にすると六時を回っていた。
そろそろセスナからの宵の晩餐の誘いが来る頃である。
外を哨戒中のリースも察して戻ってくるだろう。
そのような事を考えていたイザードには頭の片隅を掠める懸念があった。
「毒などを盛られなければ良いのですがね……」
イザードは肩を竦め、皮肉混じりにぽつりと吐いた。
しかし声に出すつもりは無かったのだろうか、自ら口に出した言葉にはっとしたようであった。
だが、覆水盆に返らず、というわけか開き直った風体で更にも先を口にした。
「例の誘導薬が効いていない、とバレてしまえば何をされるかわかったものではありませんしね」
「……うむ」
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