PHOENIX MYTHOLOGY〜転生神話〜

□四――思慕 2
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いきなりの流れるような一連の動作にリースは心の中で舌打ちした。
多少気を抜いていたとはいえこのような状況に陥るとは――
軍人としては失格だな、と思いながらもリースは冷静に現状把握を始めた。

明かりの灯っていない部屋では天気の影響で暗く、部屋全体を見通すことは出来ないが、自分とユウハ以外の生物の気配は感じられないことからユウハ単独の行動であることが推し量られた。
後ろから、口と右手はそれぞれユウハの男らしく大きいが綺麗な手で塞がれ、左腕はユウハの身体で自身の身体に押さえつけられ、そこは流石に男女の力の差だ、動かすことは出来ない。

しかし
――しかし足には何の負荷もかかっていない。
どうにか体勢を崩せれば――

リースがそのように考え、今にも行動に移そうとした時、ユウハが耳元で囁いた。


「手荒なまねをして申し訳ないが、少し大人しくして聞いてくれ。
それが貴方とユリガル王達……ユリガル国の為だ」


いやに切羽詰ったユウハの声音とその口から発せられた内容に、リースは目をわずかに見開きユウハに従ってみることにした。
抵抗しようと考えて出そうとした足を地につけたまま、しばらくされるがままになっていた。
そんな様子のリースにユウハは理解してもらえたと感じ、一息を付いてリースの口や腕から自らの腕を放した。
解放するとそのまま立っているリースを確認するとユウハは絨毯によって鈍くなった足音を暗い室内に響かせながらリースの前まで回った。

瞳と瞳が交差する。
ユウハはリースの瞳を見て思わず息を吸い込みそうになった。
突然の無礼に怒るでもなく、ただただこちらの発しようとしている言葉を待つ

――その深さと無に。

未だに雨が降り続け物に触れて音を発する音だけが二人の耳朶を打つ。


――ユウハは口を開けず
――リースは口を開かず


しばらくその部屋には息の詰まる空気がとぐろを巻いていた。

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