PHOENIX MYTHOLOGY〜転生神話〜

□参――コーネル 3
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(……またあの侍女達か。
はっ。
つまらん)


心地よい日差しが差し込む静浄泉内の芝の上で、見た目二十程の緑色の綺麗な長髪を無造作に垂らした美青年――イザードとまではいかないが――が寝返りをうちながら不満の溜め息をついた。
見えずとも感じられる背後からの気配に、青年の心中は激しく荒れ狂っていた。


「ユウハ様、偶然でございますね。
せっかくですので、もしよろしければお茶などを御一緒いたしませんか?」


「……」


明らかに自分が居るところを見計らってきたのであろうに、軽く頬を紅に染め、さも偶然を装ってやって来た侍女の言葉に、青年――ユウハの心中はつまらない物に会ったという気持ちで溢れかえっていた。

しかし、自分の今までの“優しくておおらかな皇太子”という苦労して積み上げてきたイメージをこんな侍女の為に崩されてはたまらない、と一度上体を起こして微笑み、やんわりと誘いを断った。


「せっかくのお誘いだが、今日は何だか風に当たりながらゆっくりと考え事をしていたいんだ……。
次の機会にはまた誘ってくれ」


そう言って、自らの整った顔をすまなさそうな色をのせて微笑ませた。
自分でも吃驚な程の仮面だ。
案の定、その侍女達はユウハの目論見通りに更に顔に紅をのせると嬉しそうにきゃっきゃと下がって行った。
その後ろ姿をぼんやりとみやるユウハの心中は外からは量り難い感情で占められている。


(――良い子であると感じさせる方が懸命だ。
さっきの奴らのように近寄ってくる若い侍女達も少なくはないが、五月蝿い年配の侍女連中や自己の欲にばかり目を向けている重臣連中からは必要以上に干渉されない。

……そういうことを考えている俺も、つまらないモノ、か……)


侍女達の後ろ姿に目を向けたままユウハは自らの人格形成について自嘲した。

それは皇太子として、セスナ・レドリゲルの息子として育ってきた為のものだ。
媚びへつらう者、利用しようとする者。
皇太子である自分の周りにはそのような類の者しかいやしない……。


(どこかに居ないものか……。
ただ着飾り、媚びへつらい、お茶や自分の欲求をただ満たすためだけに生まれてきたような姫や侍女ではなく、自らの高見を目指し、気高く生きている――そんなひとが……)


ふっ、とユウハは自分の思考を嘲笑い、そんなひとはいるわけないと瞳を閉じて再び体を倒した。

そんな女性は居るはずはないのだ――

と。


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