短編6

□玩具箱の世界
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(pkmnBW/N/ありがちネタ)

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あなたの世界は私があの日この手で壊した。

あれから数年という時間が過ぎ去って、全ては巡り続けるけれどサヨナラと言って心なく笑ったあの表情を今でも忘れられないでいる。否、多分生涯忘れることが出来ないだろう。だって今でも悲しいほど鮮明に覚えている。伸ばした手は短すぎてあなたには届かなくて、青い青い、青すぎる空へと遠のいていった先を追いたくても私には大切なものが多過ぎた故にそれは許されなくて。あなたの世界を崩壊させたあの日に本当に壊れてしまったのは私の世界だったのではないかとすら思う。



旅に出る前はベルがいてチェレンがいて、それだけで良かったはずなのにあの日、出会ってしまった。どこかで止めてほしいの望んでいる弱くて脆い心の縁を覗いてしまった。自覚なんてなかったけれど、あれはきっと私の初恋だった。だからこそ許せなかった、あなたを利用しつくして世界を手に入れようとした、歪な子供部屋に閉じ込めてNの時間を奪った、何年分かの笑顔も経験さえも奪った、あの男のことだけは。



純粋すぎる心を持つ人は可哀相だと言ったのは誰だっただろうか。あなたはもっともっと、それこそあたたかい太陽の日差しの下で笑うのが似合うのに、それなのに現実は息が詰まるくらいに残酷だった。だから壊した。英雄なんかになりたいわけじゃなかった、そんなに偉大なことなんかじゃない。私はNのようにただただ純粋なだけではいられるはずなどない。




ただ、どんな形だろうとこの状態からあなたを引きずり出せるならばそれで良かった。泣きそうな目をするあなたをどうにかしたかった。ただ一人の悲しすぎる人間を救いたかった。思いの強さが英雄を選ぶというのなら私の中に満ち溢れた思いは純度80%のそれ。もちろん欲張りだから、他にも護りたいものはあったけれど。




だけど、だけどやっぱり信じられない。だってあの日私はあなたの世界を自己満足で壊したはずで、傷ついたあなたはこの場所と私にサヨナラを告げたからここには戻ってくるはずなどないはずで、…だからこれは夢なのだと思う。







「…ただいま。」







心なしかゆっくりになった話し方に、穏やかさの中に少しだけ見える戸惑いの表情。あれから数年たったというのにもう会った時には青年だったあなたの姿はあまり変わらない。なにかが溢れ返ってきて止まらなくなって思わず一直線に抱き着きに走った。もう自分が何をしてるかなんて考えるだけ無駄だと思ったから考えることを放棄。けれどとりあえず成長期真っ只中の私の身長はあの頃よりちゃんと伸びていて、それを知ってか知らずかあなたは耳元で少しだけ笑う。

抱き着いているから表情は見えないけれど、そんな柔らかい笑い方をするようになったことにまた胸がいっぱいになったけれどそれが嗚咽と涙となって外に出ていくものだから、まだまだ「おかえりなさい」と言えないみたいだ。








(玩具箱の世界の先)




ねえ、あなたは新しい世界で救われたの?(涙が止まったら聞いてみよう)




END




 

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