プレゼント

□桜の樹の下で
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深紅の桜花・椎奈様より。








桜の樹の下で




「いい季節ね〜。あったかいし、桜のピンクと菜の花の黄色が綺麗。衛にしてはいいお花見スポットを知っていたわね。」

車で1時間半ほどドライブしたところ。川に沿った土手の上に桜の木が並び、下には菜の花畑が広がっている。

「元々洪水の凄いところだったんです。そこへたまたま巡礼にきた母娘を人柱に立てたなどの悲話など残っているんですよ。」

ああ、なるほど。そういう理由で知ってたのね。納得。

「しかし、昔ながらのお花見場所ね。恩賜公園とかもいいけど、こうやってゆっくり並木の下を歩きながら見るのは…ゆっくりできていいわね。

「そうですね。たまには外に出て季節を感じるのも…悪くないですね。」

「本当よ、もう少し外に出るように努力しなさいよ!」

「うわああっ!はるっ…!!」

横を歩く衛を少し突く…が、タイミングが悪かったらしく、土手から落ちそうになって…ああ、もう。
思わず左手を伸ばして、衛を支える。

「遥…つけてくれるのは嬉しいのですが…いい加減、母の形見を返してくれませんか?」

衛は―――あたしの手を掴んで、見つめて…もう何度目か解らない台詞を言った。
その口はまだ言うのか。

「だから言ってるじゃない。―――別の指輪をくれれば返してあげるって。」



土手の下の遊歩道に、食べ物とかくじとかの屋台が見える。耳朶を弄りながら衛があたしに言う。

「―――遥。じゃあ1つ賭けをしませんか?」

「賭けって?何を賭けるの?」

「あそこにおもちゃを売ってる屋台がありますよね?あそこにおもちゃの指輪が売ってます。見えますか?」

うんと頷く。

「遥、何色が好きですか?」

「えっ!?あ、あか…。」

思わず答えた色だった。衛は私の手をひいて、屋台まで連れてくる。そして駕籠の中に入っているおもちゃの指輪を指差していった。

「これから目を瞑って手を入れます。赤い指輪が取れたら…母の指輪を返してください。」

「えっ…も、もし外れたら?あたしがこのまま貰っていいの?…そんなのは嫌よ。アンタに…悪いもの。」

返したくはないが、でも衛の大事な物だって事は十分に理解をしているつもり。だから…返すつもりではいるのに…


「…まあ、やってみましょう。」

しゅんとしたあたしの態度と答えとにくすっと笑った後、衛は目を瞑って駕籠に手を入れ…取り出す。
手には―――おもちゃの赤い飾りのついた指輪。


「あ、赤い…嘘。他にも色あるのに…。」

「赤い、ですね。なので…返してください。」

…文句は言えない。もともと衛から預かってたものだから。でも…。
何とも言えない気持ちを押さえながら指輪をはずす。

「はい。これでいい?」

「ありがとうございます。じゃあ、あなたから預かってたピアスをお返ししますね。」

衛は内ポケットから父さんのピアスを取り出して返してきた。
…なに?嫌がらせ?

「で、次に…この赤い指輪をどうぞ。」

…衛からの指輪は嬉しいけど…おもちゃってのはないんじゃない?
あまりに酷い扱いと込み上げる悲しさ。
もうどうでもよくなって、はいっと右手を差し出す。

「…違います。こっちの手で。」

そう言うとわざわざ左手をとり、おもちゃの指輪を薬指に入れてきた。

「なに?厭味?嫌がらせ?」

「…きちんと見たほうがいいですよ?遥。」

何よ…何度見たってそこで売ってるおもちゃのゆび…??!!
―――あたしの左手の薬指には、おもちゃの指輪と、水色の透き通った石がついた指輪がはまってた。





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