プレゼント
□バレンタイン小説@
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バレンタイン小説@
明くる年の2月14日
《癸生川》
最近の男性は、甘いものが好きらしい。
「そうなんですか?」
「え、ああー…どうなんだろう」
伊綱は隣を歩く生王の曖昧な返事に少々呆れて彼を見た。
「どうって…、じゃあ、生王さんはどうなんですか?」
「…僕?」
街は茶色とハートで埋め尽くされていた。何処を歩いてもチョコレート。お菓子業界の策謀と言われているが、ここまでくると何か他の大きな力を感じる。
「うん。普通だな…出されたり貰ったりしたら食べるし」
「まあ、生王さんならそういうと思ってました」
2人は小さな店の前で立ち止まる。ガラス越しに様々な形のチョコレートが展示されているのがわかる。
「問題は、先生です」
「癸生川か…そうだね」
そのまま伊綱は生王を引っ張り、店の中へと入って行った。
店内は雑貨屋の様に狭かった。ごちゃごちゃした棚の上には、きらきらの包み紙に包まれたチョコレートが乗っている。値段や種類も様々で、生王は普段踏み入れたことの無い世界に、少々戸惑っていた。
「い、伊綱くん、僕外で待ってようか?」
「なにいってるんですか、一緒に先生へのチョコレート選んで貰わないと」
「だだだってここちょっと狭いし僕邪魔になるし周り女の子ばっかりじゃないか!」
さながら電車の女性専用車両にうっかり乗ったかの様な混み具合と痛い視線だ。
誰かと肩がぶつかる度に、生王は謝り続けた。
「あ、生王さんこのチョコどうですか?」
「え?ど…っわ、すみません」
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