プレゼント
□バレンタイン小説@
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「値段なんかも妥当ですし、生チョコって定番な感じですし…」
「生チョコ、う、ん。いいんじゃない!?ぎゃ、ごごごめんなさいごめんなさい!伊綱くん助けて!僕流されちゃううう!」
「生王さん…」
哀れんだ目で生王を見ていると、また、何度目かになる衝突が起こった。
「ああまた…」
「すみません!す…」
生王はぶつかった女性を見て、絶句した。
「生王さん?ど…」
彼は静まり返った店内に辛うじて聞こえる様な声で、
すみか さん
とだけ、呟いた。
――――――――――――――――――
「…結局、」
結局、人違いだった。
「………ごめんなさい」
呆然と立ち尽くす生王を連れて、伊綱はその店を出た。
今は、少し街を歩いた所の喫茶店に居る。
甘いカフェラテを頼んであげると、生王は礼を言ってゆっくりとそれを飲んだ。
「…少し」
「はい」
「似ていた気がして、」
「………そうでしたか」
外の賑やかさを遮断した静かな空間だった。時計の針の音、こぽこぽという珈琲を作る音、
―――かちゃん、
食器が触れる音に、生王は顔をあげた。
「…ケーキ、」
目の前に置かれた一片のチョコレートケーキに、生王は驚いて向かいの席の伊綱を見る。
彼女はその様子を眺めて微笑み、
「私からの、バレンタインプレゼントです」
ケーキを指差した。
そして続ける。
「生王さん、楽しくなる話をしましょう」
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