遙かなる時空の中で
□欠け堕ちる月
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「先生っ、先生っ!?」
少女の叫びが響く。
強さを秘めた彼女の聲[こえ]は、いまや哀しみしか宿していない。
彼女は強くなりすぎた。それこそ、師である自分を凌ぐほどに。
幾度運命を巡り辿ろうと、少女は失われてしまう。
強くなればなるほどに、“その時”は早まる。
だから。
―――すまない。
彼女から離れた。
失わないために。
けれど、彼女は追ってくるだろう。
幾度も見た運命と同じに。
身を隠し、少女と仲間を守るために戦場を乱した。
そのたびに聞こえる、自分を呼ぶ少女の聲。
合戦の雄叫びに呑まれようとも聞こえる、聲。
唯一つの言の葉だというのに、それは心を戒める。
彼女を救う為だと、ともすれば迷いそうになる己を叱咤して。
だから。
彼女から離れた。
失わないために。
なのに。
彼女は
私を追って。
はらりと、ひとひら。
赫い雫が舞って
―――散った。
嗚呼、幾度この光景を目にしただろう。
ああ、いくどこの感覚をかんじただろう。
『腕の中で、大切なモノが失くなる感覚』
崩れゆく運命。
クズレテシマウ。
何故。
ナゼ。
お前は。
破片[カケラ]がひとつ、砕けて消えた。
終
次項、感想です。