オリジナル(ホラー)
□天気予報の羅針盤
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私が顔なじみの古道具屋「夢有」に入ろうと扉に手をかけると、中から扉が押されて人が出てきた。
急いでいるらしく、小走りで去っていった。
「こんにちは。」
私が店に入ると、目の前の棚の上に置かれた大きな羅針盤のようなものが目に入った。
じっと見ていると、奥から店員がやってきた。
「いらっしゃい。これがどうかしました?」
「面白そうなものだと思って見てたんです。」
最初は羅針盤かと思ったそれは、本来『東西南北』が書かれているべき場所に、晴曇雨雪が書かれていた。
「お客さんと入れ違いで出て行った人が持ってきたんですよ。これ、何だか分かります?」
「うーん、天気予報が出来る道具…とか?」
「さすがですね。そのとおりなんです。持ってきた人によると、その地域の翌日の天気を当てる道具なんだそうです。」
「まるで風待月さんのようですね。」
風待月さんはこの地域限定で活躍していたネット気象予報士だ。
晴れ・曇り・雨しか予報しない代わりに絶対はずさない。
だから、ここら辺の住民はみんな、天気は風待月さんに、気温や風については天気予報を見るというのが最近の常識だった。
しかし、一昨日、急にページを閉めてしまったのだ。
店員は笑いながら言った。
「まるでも何も、その風待月さんが持ってきたんですよ。」
「風待月さんの家は農家だそうです。
最近ずっと晴れてたでしょう。農家の皆さん、苗が枯れそうになってすごく困っていたそうです。
そこで、なんとか雨を降らせられないかと思って、無理やり針を『雨』に合わせてみたらしいんです。
そしたら、翌日見事に雨が降りました。しかし、それ以来壊れてしまったのか、全く動かなくなったそうです。
けど、貴重なものだろうから引き取ってはもらえないかとつい先ほど持ってこられたんです。」
「不思議な道具をいろいろ扱う夢有の店員さんなら直せるんじゃないですか?」
「いや、これは店長じゃないと無理だろうなぁ。こんな特殊なものが使われているし…」
そこまで言ったところで、店員は「しまった」という顔つきになった。
「お客さん、今の言葉、絶対に内緒にしといてくださいね。店長にもあんまり知られたくないことだから。」
「いいですよ。その代わり、直ったら私に売ってくださいね。」
そして今、私は出来上がるのを楽しみに待っている。
出来上がったら、さっそく使ってみようと思う。2代目風待月として、天気予報をするために。