オリジナル(ホラー)
□舞扇
1ページ/1ページ
おやおや、また日舞を習いに来たのかい?
うんうん、教えてあげよう。どれ、ひとつ踊ってみなさい。
え?今日は扇を忘れた?
仕方がないねぇ。私のを貸そうか。
あの奥に置いてあるやつを使いたいって?
ダメダメ。あれでも奉ってあるんだから。
そういえば、君は前にもその扇を使いたいって言ってたね。あれが一番綺麗だからって。
なぜ使っちゃいけないのかって、それはね。
その扇のもともとの持ち主は私に日本舞踊を教えてくれた人なんだ。あの人は女神のように美しく、その日舞は天女が舞っているようだった。天皇陛下の前でも披露したことがある、素晴らしい舞姫だった。
けれども、新しい演目のお披露目公演で、その扇を使って踊っていたとき、突然舞台の上であの人が倒れてしまったんだ。その場にいた私たちは急いで手当てをしたが、結局助けることは出来なかった。
あの人の葬儀が終了した後、一番弟子だった私が彼女の扇を譲り受けることになった。私が普段使っているものよりもうんと上等なものだった。私は嬉しくて、その日からその扇ばかり使っていた。
しかし、その扇を使って踊ると、私はうまく動けなかった。上手く踊れてはいるんだよ、ただその舞いに私らしさは微塵もなかった。まるであの人の舞いをコピーしているような感じだった。そして、気を抜くと、自分が踊っている演目がいつのまにかあの人の最期の舞いになってしまった。
そんなことがあまりにも続いたので、何か悪いものでも憑いているのか、それともあの人の舞いきれなかったことに対する怨念のようなものが張りついてしまっているのか、確かめようと思い、その扇を神社に持っていった。
神主さんは丁寧に、その扇を見てくださった。神主さんによればその扇にはあの人の恨みがこもっているらしかった。一応お払いはしてもらったが、あまりにも強い恨みだったためどの程度効果があるか分からないといわれた。そこで、私はその扇を引き取って、自分の家で彼女の舞いを称え、扇を神棚に奉ることにした。まあ、その神棚が前の大地震で無くなってしまったから、今はあの奥に置いてあるんだがね。
これがあの扇を使っちゃいけない理由だ。
あの人を上回るような舞いが踊れるようになったらこの扇を使えるようになるかもしれないね。
さて、その日の為に練習しなくちゃ。
【あとがき】
今回の話のテーマは舞扇です。
このテーマ、妹にリクエストされたんですが、妹は皆さんご存知のとあるゲームの3をやっているときに思いついたのではないかと思っています。
(私は個人的に、ピンク髪の主人公より黒髪の尼さんの方が好きです)
しかし、私の書く話とキャラクターの口調がかなり違ったので、今回もまた、オリジナルということになりましたw
あまり怖くないとは思いますが、しばしお付き合いください。
<>