池田屋24
□申の刻
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桝屋の頭の中では、全身に錆と蝋が混じり合った自身の姿が連想されていた。
痛みよりも壮絶な恐怖に襲われ、自分の立場よりも耐え難い状況に追い込まれた。
「判った、話す!」
逆さに吊るす手配をしていた藤堂の手が止まる。
それと同時に、
「止めるな、続けろ」
と、歳三の脅すような声が響いた。
「桝屋、まずは名前を言え」
足元での作業は、着々と進んでいる。戸惑っている暇はない。
「古高……。古高俊太郎……」
震えながら、本当の名を口にした。
歳三は、ニヤリと笑い、顎に手をついた。
手を止めようとした藤堂に、また続けることを促す。
「で、蔵に入った武器は何に使う?」
古高の震えが止まらない。全てを話さなければ、歳三は止めてくれないだろう。
「強風に乗じて、市中に火を放つ。混乱の隙に天子様をお連れする……」
「ほう、なるほどな。それはいつだい?」
「そんなことは知らん。動くのは私じゃない」
「じゃあ、誰なんだ?」
脂汗が滲んでいる。足がしっかりと固定され、反対の縄の先が天井にかけられようとしていた。
「よくは判らん。だが、私とつながっているのは宮部殿だ」
「ふうん、それと?」
体がゆっくりと足先から浮いていく。ギシリと梁が軋む音がした。