池田屋24

□午の刻
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 永倉が表に出ると、原田の組の隊士が副長室に入っていくのが見えた。桝屋で何か新しい動きがあったのかもしれない。
 尋問を続けるにあたり、こちらで掴んだネタを知っていた方が良いと思い、永倉は副長室に向かった。

 副長室の襖の前で永倉は声をかけ、歳三の返事を待つ。

「おぅ、八っつぁん。入ってくれ」

 歳三は機嫌良さげに声をかけてきた。こんな歳三には必ず裏がある。忙しすぎてやけくそになっているか、何か重要な手がかりが手札に入り、自分の思考の中で完結したときか。

「トシさん、桝屋は口が固ぇよ」

 尋問の成果が上がらないことを素直に認め、歳三の手の内を探る。頭の回転が滅法速い歳三の思考に追いつくには、歳三の手札を知るのが手っ取り早いのだ。

「だろうな。奴さんは大物だよ。今まで捕まえてきた奴らとは格が違うようだ」

 そう返すと、原田の組の者がもたらした内容を話し始めた。

「蔵に一杯の武器弾薬!」

 蔵の規模は大小あるものの、それを京の街で堂々とやってのけてきた桝屋に驚愕する。

「しかも、書状のやり取りも色々あるみたいでな」

 こういうとき、歳三は手の内を明かしながら確信をぼやかす。確信に気づかない人間には、当然厳しい対応が待っているのだ。武田などの学がありながら本質を見抜けない輩は、当然こういう問答に嫌気がさしている。永倉は、こういう物言いの歳三を嫌いではなかった。

 書状には、

『大風を待つ』

 とある。

「なるほどね。こりゃ大事だ」

 永倉には、歳三の思考がおぼろ気に形になりつつあった。
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