池田屋24

□巳の刻
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 高瀬川の河原で繰り広げられている乱闘は、二人の志士が縄にかかり、うち一人が隙をみて自刃、残りの一人は運良く逃げ切る結果となった。

「よし、蔵の見張りを河原に2人、表に2人置いて、残りは蔵の検分だ」

 原田は、やっとこの段階で、舟に積まれた荷が動いてしまったことに気づく。舟は既に視界から消えており、確認する術もない。

「おい、舟の足取りを掴んでる奴ぁいるか?」

 幸いにも、猪突猛進な原田の部下には、冷静な者が一人紛れ込んでいた。歳三の采配である。こういうことには抜かりがない。

「橋の先の分岐でどちらに行ったか定かではありませんが、荷を積んだもの、人を積んだものそれぞれ二隻ずつでした」

 さらに、二艘の舟には荷と人が満載であった。舟足の速い小型の猪牙舟だったので、人は五人も乗れば一杯となってしまうが。

「そんなに乗ってたなら、追いかけられたかもしれんなぁ」

 自分から走り出した者達を追いかけておきながら、原田はそんな風に呟く。
 そんなことを考えながら、裏手から蔵の中へ入っていった。ちょうど志士達が出ていく際に、鍵などかける余裕はまったくなかったので、蹴破る必要がなくなった。

「なんじゃ、こりゃ!」

 蔵の中は武器弾薬、最新式の銃に大砲まで用意されている。手前の方から棚二つ分が空になっているのが、先ほど持ち運ばれた分だろう。

「こりゃ一大事だ。俺がひとっ走り番屋に出向いて人手を用意してくる。奴らと同じく舟で運ぶしかねぇだろなぁ、こりゃ」

 今残った荷を確実に敵方に渡さぬ配慮が必要であることに、原田は焦りを感じていた。諦め半分といった言葉が漏れ、現場でのそんな原田の言葉に虚しさが漂う。
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