池田屋24

□辰の刻
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 京の日差しは、夏の暑さをさらに暑いものにする。
 山に囲まれた地形は、湿度を高くさせ、蒸し風呂に似た状態を作り出す。

 そんな中で壬生の新選組屯所内では、一つの事件が起きた。

 雪隠に並ぶ列――。

 腹を下した者が続出したのだ。食あたりである。
 その光景に、歳三は激怒した。

「このクソ忙しいときに、何やってやがる!」

 局長室に響く歳三の声に、

「まあまあ」

 と、なだめる近藤の困りはてた声が重なった。

「仕方ないだろう。向こうさんはこっちの事情なぞ知らないんだ。むしろ知っていれば、もっと派手に事をおこすだろうがね」

「だからと言って、今日の今日にこんなことになるこたぁねぇだろ」

 それにしても、タフな二人だ。隊士五十余人の中で、二十余人が腹を下している。なんともない者は、江戸から来た近藤一派と残りの数名程度である。
 ようは、稽古や打ち合わせで朝飯を食いそびれたとも言えるのだが。

「とにかく、桝屋が到着するのを待って何をするべきか体制を整えることだ。中じゃあこっちもやられちまうから、残りの者達は外で飯を食おうじゃないか」

 呑気な近藤の言葉に、歳三の怒りが和らぎ始めた。

「全く、近藤さんに言われたら、それしかやることねぇじゃねぇか」

 一通り落ち着いたところ、総司が廊下から声をかける。

「おとりこみ中のところ、失礼します」

 障子が開き、律した総司が姿を現す。

「お話が落ち着いたようですので、食事をお誘いにあがりました」

 屈託のない笑みを浮かべ、何もなかったように続ける総司の姿に、歳三は完全に勢いを封印されてしまった。

「そうだな、一緒に行くか。腹が減っては戦はできぬだ」

 近藤が高らかに笑うと、さっきまでのはりつめた空気がすっかり和んでいた。
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