池田屋24

□寅の刻
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 そう凄まれると、さすがの武田も為す術がない。隊士と顔を見合わせて、潔く元来た道を戻るしかないようだ。

 山崎にとっては、武田の扱いなど雑作もないことだった。これでも動かなければ、

「大物を捕らえるための第一歩さ」

 とでも付け加えようかと考えていた。
 実際に大物かどうか、この段階では山崎の知るところではなかったものの、ここで武田を向かわせたのは、一つの助長と、大きな誤算を生むこととなる。それはまた後の話。今は桝屋主人の捕縛が先決であり、それ以上の思惑はまだ何もない。

 武田の提灯が見えなくなるまで見送り、山崎は道を逸れた。目指す先は武田の進む方角よりもやや南、四条通りであったが、同じ方向に歩く気にはなれなかった。武田が土方を苦手としているのと同様に、山崎もまた、武田は虫が好かなかった。
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