豊玉発句集

□水の北山の南や春の月
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 出稽古で、山南がやって来る。その話しを聞いて、歳三は前の日から姉の嫁ぎ先に泊まっていた。
 夕飯を終えて、縁側でボーっとしている。春の霞がかった夜空にうっすらと月明かりが広がっていた。

 朧月夜は何か物悲しくなる……

 そう感じるのは、最近身の回りで情けない気持ちになる事が多いからだ。政治の話しはカラッキシだし、歳三の回りには強い人間が多すぎる。今日泊めてもらっている姉の旦那、歳三にとっての義兄も強い男の一人であり、嫁いだ姉もそうだった。男も女も逞しくて、歳三自身はそのものがちっぽけに思えて仕方ない。
 時代が違う方向に流れている気配は感じる。だからこそ何かをやり遂げたいが、何をやるべきかまとまらないでいる。
 悶々とした日野での生活の中で、こんな腹の中を誰かに悟られてはならないとつとめて明るく振る舞った。
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