簪お静シリーズ
□林檎の唄
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風向きが北に変わることとなった。木枯らしとまではいかないが、冷たい風が町中に吹いている。日差しがあっても肌寒い。
そんな秋の日に、少女が売られてきた。
連れてきたのは女衒の新吉、見た目は若いがもう十年もこの仕事をしている。
「いいかお芳、これからここがお前ぇの住処だ。早く慣れて、せいぜい姐さん達に可愛がってもらうんだぞ」
少女は俯いたまま返事もしない。新吉は、少女の頭を軽くポンと叩いて、年増から金を受け取った。
「女将さん、こいつぁ化けるぜ。おいらが連れてきた女で一番の稼ぎ頭だった藤君以上のはずさ。はやいうちから格上の姐さんにつかせるといいよ」
年増はニッコリと微笑んだ。口元は笑っているが、目元に綻びがない。
「新さんがそう言うんなら間違いないだろ。いつも上玉を寄越してくれてありがとよ」
新吉は、受け取った金を数えながら年増の言葉に頷いた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……、あれ、いつもより多くないか?」
手元を見ていた顔を上げると、年増をじっと見つめる。笑わない目元が、珍しく物言いたげな雰囲気だった。新吉は、右手に持った金を反対の人差し指で指す。いつもはケチケチしている年増が奮発するなんて信じられない。