簪お静シリーズ

□蒼い花売り達
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 お静の昼間の顔は、父親が作った簪の行商だ。まだ幼さが残る顔で江戸の遊郭に出入りして、自慢の摘み簪を売り捌く。
 今日も色とりどりの簪を箪笥に並べて、どの姐さんに簪を売ろうか考えていた。

「簪なんてのは因果な物だ」

お静の後ろに父が立って、自分の作品を摘み上げながら呟いた。

「これ一本で女の勤めが伸びちまう」

 町娘に売るのであればこんな気持ちにはならないだろう。自分を美しく飾るために自分の親の懐、若しくは好いていてくれる男から金が出る。簪そのものを素直に喜んでもらえて、笑顔で一番気に入った簪を手にしてくれる。そんな女は簪一本でキラキラ輝くものだ。
 だが、遊郭の女に売る簪こうはいかない。貢いでくれる男がいても、簪一本買ってしまったために借金が増えるのが殆どだ。しかも年増は、簪や化粧、着物などをどんどん買わせて借金を増やすのが慣わしだ。借金が増えれば年季が伸びるのである。
 だったら買わなけりゃいいじゃないか。誰もがそう思うだろう。しかし遊郭にいる女にとって、美しくなることは武器である。最初のうちは年季が伸びる事を気にして手を出さない。しばらくすると、客を付けるためにはと着物を一枚買ってみる。そこそこ客が付き始めると、今度は身請けしてもらいたくなる。それで簪一本、新しい紅と次々に買い込むという寸法だ。
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