簪お静シリーズ

□蒼月の夜桜
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 春には珍しい蒼く輝く月。今夜の桜は、心なしか花びらを美しく染める月の光に喜びを讃えているようだ。


 父親の簪売りを手伝っている少女お静は、毎夜繰り広げられている賭場に向かい神楽坂を上っていた。最初は興味本位で行商仲間と足を踏み入れたが、今ではすっかり馴染みとなってしまった。


 初めて博打を見たときは、連れの男の様子を探り、後ろから眺めていた。この場所にそぐわない自分の若さも手伝って、ただ呆気にとられて成り行きを見守るのが精一杯だった。
 だんだんと仕組みが解ってくると、次は場の流れに気づく。勝つ者負ける者の按配を探ると、妙に法則があるような気がしてきた。連れの男は最初調子よく、半と張れば賽の目は「半」、丁と張れば「丁」を示していた。しばらくすると、三度に一度外れる。またしばらくすると二度に一度、終いには全く当たらなくなってしまった。
 当たらなくなって頭に血が上ったのか、男は明日の仕入れの金に手を伸ばす。

「辰三さん、止めときなよ」

お静が注意すると、

「うるせい、これからなんだよ」

と、制止を聞かずに札を買ってしまった。
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