簪お静シリーズ

□蒼い花売り達
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「この優しい色合いがなんともいえないのよ」

四季の彩りとその季節の花を題材にした摘簪は、蝦一の手によってより深い色合いを醸し出す。お静にとってそんな父親を持ったことは自慢であり、作品は誇りであった。

「天音姐さんにはこれが似合うと思ってたんだ」

一番うっとりと簪を眺めている女から声を掛ける。お静の見立ての背景には、三日前に売り込みに来ていた着物屋の辰三からの情報がある。誰がどんな着物を買ったのか、手にしただけで買わなかったのか、そんなことを聞き出していたのだ。その隙をつくように、着物に手を出さなかった女に売り込む。着物を買った女は、財布の紐がきついはずだ。もちろん、女の好みの風合いなどは織り込み済みである。
 お静の売り込みは、博打の際の駆け引きに似ていた。誰が買いそうか絞込み、的確に買う女を見抜く。たまに外れるときもあったが、大当たりのときは見事なものだった。連鎖反応を誘うような勧める順番も想定している。完璧に予想通りに売れることは滅多に無いものの、想定から逸れても品切れまで売れることは多かった。一度の売り込みに五軒回る予定にしているが、全て回りきれることは殆ど無かった。大抵三軒目で品切れとなる。もちろん一軒目で完売ということも多々ある。
 商売人と客との駆け引きは続き、天音の次は千代、次は雪香と勧めていくと、今日は珍しく一番人気の花魁太夫の黛君が現れた。

「あらお静、お久しぶり」
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