簪お静シリーズ
□蒼い花売り達
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「姐さん達は花を売っている。あたし達ゃ悲しい花達に夢を売っているのさ」
クルリと背を向けてしゃがみ込み、簪を箪笥にしまう。お静の背中は、もうイッパシの行商人になっていた。
父親は、いつまでも幼いと思っていた娘から、そんな言葉が出るとは考えたこともなかった。そんな感慨にふけながら、
「俺の簪が売れるのはお前ぇのお陰だな」
と、ポンとお静の背中を叩いた。
「気をつけて行ってくるんだよ」
父親が押してくれた優しい手に答えるように、お静は勢いよく箪笥を担いで外に出た。
「そろそろお静に次の仕事を任せる刻が来たのかもしれないなぁ」
お静が出て行くと、父親はそう呟いて作業場に戻った。
軒先で立ち止まり、ゆっくり空を見上げる。風は冷たくなっているものの、お天道様の優しい光が辺りを包み込む。空は澄み渡り、穏やかな小春日和である。お静はゆっくり息を吸い、大きく吐き出すと、気合を入れて一歩を踏み出した。