簪お静シリーズ

□蒼い花売り達
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 話しが身請けになってくると、それは大変な事だ。女の借金をチャラにして、身請け料を店に払い、盛大な祝いの宴を催す。そんな大金を動かせる人間にそう簡単に出会えるものではない。
 そうやって借金が膨らみ、気がつくと年季の終いがなくなってしまう。身請けもされず年を重ねて客が減る。後に残るのは病気になって死を待つことだけだ。遊郭を出られる方法は、身請けか死しかないと言ってほぼ間違いなかった。
 そんな女達に簪を売りつけることに、父は憂いを感じている。借金が膨らむ女も惨めだし、それを食い物にしている自分にも腹立たしさを感じていた。

「お父っつぁん、そんな事ないさね」

お静は笑顔で振り返り、真っ直ぐ父を見上げた。

「何故だい?」

自分が感じている哀れみを否定されて首を傾げる。

「姐さん達、嬉しそうに簪を選んでいるよ。いい簪がみつかると、そりゃあ目を細めてうっとりしているもの」

お静はすっと立ち上がり、父が手に取った簪をすっと抜いて、慣れた手つきで自分の髪に挿した。

「お父っつぁんの簪はあたしには似合わないでしょ? これは姐さん達のための簪だもの」

お静は、その言葉の意味を父親に確認するように、そして何かを促すように、じっと父親を見つめてからそっと簪を抜いた。
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