簪お静シリーズ
□蒼い花売り達
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お静は足取りも軽く、吉原の馴染みの店に向かって歩き出した。外に出ると、顔見知りがあちこちから声をかける。賭場でもすっかり人気者だが、町中でも相当のものだった。
「今日は商い日和だな」
大家さんが声を掛けると、お静は丁寧にお辞儀をして、
「家賃分位は稼いできますね」
と笑った。
こんな調子で次々と声がかかる。お静は優しい笑みをたたえながら、子供や仲間達にはガラッパチの江戸言葉、目上の人には丁寧な言葉と巧みに使い分けていた。
「お静ちゃん」
吉原までもうすぐ半分というところで、以外な人物に声をかけられた。瓜実顔に上品な口元のその女に、お静は首を傾げた。
「あたしよ、玉屋でいつも簪を買っていた…」
そこまで言われてやっと思い出した。これから出向く店で太夫をしていた女だ。
「藤君姐さん。この近くに身請けされたのかい?」
お静はその女に駆け寄り、箪笥を置いて手を取った。