novel

□紫陽花日和
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肩が触れ合う。
その度に顔が熱くなってうつむく。
「わ…紫陽花だ」
隣で神童が驚きの声をあげた。
うつむいていた顔を上げると、一面の紫陽花。
T字路の付き当たりの空き地に青、ピンク、紫、様々な色の紫陽花が咲き乱れていた。
俺にとっては見慣れた道だが、神童は初めて見た風景なのだろう。
「こんなに沢山咲いているのは初めて見た…綺麗だな。」
珍しく目を輝かせる神童を見て頬が緩む。
「ああ。綺麗だな。」
見慣れた風景も、神童の隣で見るとどこか別の場所のようだ。
神童と出会っていなくても、毎日がこんなに輝いていたのだろうか。
いつの間にかそんなことを考えていた自分に笑えてきて、ふふ、と笑みをこぼした。
「霧野!」
名を呼ばれて振り向くと神童は手にした紫の紫陽花を一輪、髪飾りのように俺の髪にさした。
「…綺麗だ。やっぱり霧野には紫が似合うと思って。」
そう言ってまた、微笑んだ。
いつの間にか雨は止んで、空に虹が架かる。
雨の雫をのせた色とりどりの紫陽花が、きらきらと輝く。

今日は、紫陽花日和だ。
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