novel

□これまでも、これからも。 9/3記念
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「霧野…!遅くなってすまない…」
息を切らした神童が教室に入ってきた。
「委員会、お疲れ様。走ってきたのか?」
読んでいた本から顔を上げて問う。
「ああ…思ったよりも話合いが長引いて…本当にすまない」
「いいよ、そんな謝らなくて。」
ぱたりと読んでいた本を閉じると神童が俺の前の席に後ろ向きに座った。
「何の本だ?」
神童が本の表紙を覗き込む。
「真夏の方程式。面白いよ」
「霧野は本当に本が好きだな。」
神童が苦笑する。
きっと本を読んでいるときの俺の尋常でない集中力を思い浮かべたのだろう。
俺もつられて苦笑した。
窓から吹き込んできた風が神童の髪をふわりと揺らす。
夕日が映る瞳が、優しげに微笑むと頬が熱くなった。
不意に、神童が俺の前髪に触れる。
自分でも顔が赤くなるのがわかった。
そして神童の顔が近付き、額にやわらかい温もりを感じる。
一分のようで、ー瞬だった。
呆然とする俺に、席を立った神童が手を差しのべる。
「そろそろ帰ろうか。」
そう言ってまた神童は微笑んだ。
こんな日常が心地よい。
そしてきっと、これからもこんな日常が続くのだろう。
差し伸べられた手を取りながら、ふとそんなことを思った。

ずっと、君の隣を歩いていたい。
これまでも、これからも。
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