novel

□初めましての君に
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静かな図書室に、どこからか聴こえてくるピアノの音が響き渡る。
夕暮れの図書室。
いつも大体この時間になると鳴り出すピアノの音は一体誰が弾いているのかなんて、俺は知る由も無い。
ただ、聴き流していた。

今日もピアノの音が聴こえる図書室の窓際の席で本のページをめくった。
開け放った窓から差し込む日の光がぽかぽかと背中を暖め、頬をかすめる涼しい風が心地よく、ついうとうとしてしまう。
遠く聴こえるピアノの音も手伝って、心地よい眠りへといざなわれた。

美しい音色を奏でる指が鍵盤の上を躍り、楽しげに栗毛色の髪を揺らす。
二匹の猫が鳴き、紅茶の香りが鼻をくすぐる。
此処は何処?
見覚えの無い、けれども見慣れた風景が日常のように俺の目に映る。
ピアノの音が鳴り止み、落ち着いたテノールの声に霧野、名を呼ばれた。
君は、誰?

目を覚ますと紅茶も猫もピアノも、そして栗毛色の髪をした彼も消えていた。
しかし相変わらずピアノの音は響いていた。
どうやら夢を見ていたらしい。
にしても、結局あれは何だったのだろう。
懐かしいような、でも知らない風景。
胸の奥が妙にもやもやした。
不意に、聴こえてくる音色は誰が奏でているのか知りたくなった。
今まで知りたいと思ったことはなかったが、あの夢の中の彼が弾いているような気がして、俺は音楽室へと向かった。
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