Tsubaki's memory

□男子禁制のドアを叩け
2ページ/6ページ

フェリシアーノ……もとい、アリーチェの家で行われる世界会議には、G8メンバーが主に集まり、追加で何国か集まる。

「あの、途中で何人と合流しますか?」
「嗚呼、イザベル姉ちゃんと約束してんだよね。アンタも連れてってくれると思うよ!」
「あ、はい」

その言葉の通り、離れた体育館へ向かう最中にイザベルと出会った。姉御、と呼ぶような強気な笑顔で手を振る。茶のポニーテールに、薄い口紅、ほんの少し焼けた肌は何処かアントーニョの面影を残していた。

「貴女が、スペイン、ですか?」
「よく知っとるね!あたしはイザベル・ヘルナンデス・カリエドやで。如何やら初めましてみたいやからなぁ。
んで、この子が桜の知り合いっちゅう事やな!」
「そういう事だよ、イザベル姉ちゃん!」

アリーチェとイザベルが並ぶと、何処か親子のような雰囲気を醸し出す。それにカタリーナが並ぶと、更に現実味が増していた。
イザベルは椿を頭の先から足の先まで見つめる。緑色の瞳は刀の位置で止まる。振八つ口を見て、そして肩に掛かった刀を見つめる。

「その中、刀入ってるん?」
「はい。着物の中に隠した刀と、背中に袋を被せて入れた刀、二つありますよ」
「……藤にそっくりやんなぁ。あたしの記憶が合ってればなんやけど」

藤、と言う少年を思い浮かべながら、椿は小さく頷く。カタリーナが「桜の弟の事よ」と呟くと、アリーチェは大きく頷いた。イザベルは椿の袖から刀を取り出す。

「後、その小さい方の刀構えてもらってええ?」
「はい」
「右手の逆手持ち……藤は、左手の逆手持ちなんよ」
「藤……この後会えますか?」
「会えるんじゃない?」

アリーチェが歩きながら椿へと振り返り、ふんわりと髪をなびかせて微笑む。少し強気になり、ヘタリアとならないイタリアを見て椿は小さく笑った。
謎のメンバーですね。ヘタレがいないです。
暫く歩いて居ると、大きめのビルが顔を出す。その前には、がたいの良い女の人と、細いが筋肉がしっかりと付いた長い銀色の髪を持った女の人が誰かを待つようにキョロキョロしていた。

「遅い!御前はいつもいつも……」
「まぁ良いじゃん、モニカ!ユールヒェンもいたんだ」
「当たり前だろ!あたしはモニカと一緒の家に住んでんだからな!」

アリーチェの言葉に、ユールヒェンが腕を組みながら豪快に笑う。銀狐のような風貌とは真逆に、荒々しく髪を揺らす。
モニカはアリーチェに心配をしていたのだろうか、大きくため息を漏らす。金に光る髪はベリーショートで、まるで少年のよう。

「……マッチョ女」
「殺されたいか?」
「嗚呼、受けて立とうじゃない」
「こら、カタリーナ!こんな所で喧嘩してどうするんや!」

モニカが小さく呟く言葉に噛み付くカタリーナを、母親のようなイザベルが止める。ユールヒェンはニコニコ笑いながらモニカを押さえる。

「で?その隣の女は誰?」
「嗚呼、ユールヒェンには言っとらんよね。本田椿言うて、如何やら桜と藤と関係有るらしいんや」
「藤と、か?」

モニカが椿へと視線を移す。咄嗟に目を伏せる椿だが、ユールヒェンはその頭を撫でて大きく笑う。赤い瞳が椿の目と合う。モニカは無言で会場へと入っていった。

「藤に似てるとか、思わないけど。兎に角入ろうぜ!」
「そう?似てると思ってるんだけどねぇ……」

アリーチェがその後に付き、皆で会場へと入った。ドアを開けた椿の目の前に、金茶色の髪を一つに結んだ少女が現れる。王冠の髪飾りを付け、椿の方を向いた。

「あらぁ?貴女、誰かしら?」
「フランシス……さん?」
「フランシス?アハッ、誰かしら、私は知らないわよ〜
私の名前、教えてあげるわ。フランソワーズ・ボヌフォアよ。覚えて置いて頂戴!」
「フランソワーズ、早いやん。意外やねぇ」

少し気取った笑顔で椿に話し掛けると、イザベルとユールヒェンの隣に立ち、歩き出す。フランス、ことフランソワーズは椿に小さくウインクをした。
少し先の方から、叫び声と笑い声が響き渡って来た。椿が目を凝らすと、ブロンドの短めな髪を笑いながら揺らす暴走気味な少女と、下の方でツインテールをした大人しそうな少女が並んで歩いていた。ブロンドの少女はミニスカートを揺らし、赤いジャケットを着ているツインテールの少女をつついている。

「止めてよ、エミリー!」
「メグが弱いだけだぞ!もーう、あたしに負ける程度じゃ君はヒーローになれないじゃん!」
「知らないよ!私がヒーローになりたいなんて言った事有った⁈」

椿はそのやり取りを聞いただけで、二人が北米兄弟……もとい、姉妹で有る事を悟る。椿が後ろからエミリーの肩をつつくと、エミリーはきょとんとして振り返る。
メグはエミリーの攻撃も有ってか、構えて後ろを振り向く。それが返って椿を構えさせる。

「ん?Who are you?」
「I'm Honda Tsubaki.貴女はエミリーさんですね」
「本田なの?もしかして桜の妹なのかい?」
「いえ。隣の方がマシュー……いえ、メグさんですね。アメリカとカナダですね」
「何で私達を知ってるんですか?」

後ろからフランソワーズが顔を出す。気取った歩き方でエミリーに近寄ると、お手上げのポーズでクスクスと笑い出す。
エミリーは頬を膨らませてフランソワーズを睨みつける。

「貴女達、今さっきまで喧嘩してたでしょ?そりゃあ分かるわよ」
「また気取って。君の事はよく分からないわ」
「フランソワーズ、止めとき!エミリーも、この子を理解するのは諦めた方がええで?」

メグが慌てた様子で熊に手を伸ばす。ちっちゃい白熊はクマ次郎さんを思い出させる。エミリーは小さく舌打ちをすると、メグと共に合流する。

「所で、貴女の名前椿って言うのね」
「……フランソワーズさん、貴女が聞いて居なかっただけです」
「宜しくね、椿」

フランシスに劣らないトレビアンな姿に椿は小さく息を吐き出す。
嗚呼、女の人だけの国も大変なものですね。
途中でアリーチェ、カタリーナ、イザベル、ユールヒェン、フランソワーズが立ち止まり、用事が有ると言って抜ける。メグとエミリー、椿が目指すは会議室一つだった。

「……あの。貴女方はアメリカとカナダなのですね?」
「そうだぞ!勿論あたしがヒーローよ!」
「こら、エミリー」
「……愚問でしょうか、イギリスで有る少女は何処ですか?」
「あのおばさん?そのうち会えるさ!」

エミリーの笑い声に、メグがジト目で睨みつける。怒っているが言わないのは優しさからか哀れみからか。
エミリーとメグとも分かれ、会議室を目指す椿の前に、やけにフリフリしたエプロンを着た、茶とオレンジが混ざったようなツインテールを振り、黒縁の眼鏡の下の色は緑色の少女が現れた。椿は思わず立ち止まる。その少女は椿を知らないからか、小さく首を傾げていた。

「……‼」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ