Tsubaki's memory

□男子禁制のドアを叩け
1ページ/6ページ

椿がふと目を覚ますと、既に朝はやって来て居た。
椿は昨日からフェリシアーノの家に泊まっているのを思い出し、急いでベッドから飛び起きる。
着物の帯を締め、パスタの香りがするキッチンへと足を運ぶと、其処には長い茶の髪をポニーテールで纏め、くるんと毛を生やした少女が居た。椿と目線がピッタリと合う。

「あれ?アンタ、誰?」
「へぇっ⁈フェリシアーノさんは何処へ⁈」
「フェリシアーノォ?誰それ。で、アンタ誰なの?」

部屋の間取りから、此処がフェリシアーノの家であった事は確かだ。だが、所々違う場所がある。ベッドの前に置かれたイタリアカラーのミラーに、置かれた軍服は青では無く茶だ。
そして、椿はフェリシアーノのベッドで寝かされて居た事に気がつく。着物以外の持ち物は何処にも無かった。

「……Il tuo nome Che cosa è?」
「へぇ、達者なイタリア語だね!あたしの名前はアリーチェ・ヴァルガス。フェリシアーノなんてこの家には居ないよ?」
「Grazie.Il mio nome è Honda Tsubaki.フェリシアーノさんがいらっしゃらないのですか、ではこの家には誰が居るのですか?」
「へぇ、椿ね。あたしの姉ちゃんは居るよ?」

姉ちゃん?と声を出して椿は首を傾げる。其処に現れたのは、少し長い焦げ茶の髪をふんわりとさせながら、くるんがくっと動いた少女だった。瞳は綺麗な黄緑色で、アリーチェより背は小さい。強気な吊り目が椿を捉えた。

「……此奴、誰なの?」
「椿だって。これから詳しい事は聞いてくつもりだよ」
「貴女の名前は?」
「ハァ?あたし?カタリーナ・ヴァルガス。気が済んだ?」
「姉ちゃん、また無愛想な……」

カタリーナとアリーチェが椅子に腰を降ろす。椿も誘われるままに椅子に座った。パスタの香りがしたのは食後だったからのようだ。
ハーブの香りが少しだけする簪を付け、椿は二人を見回す。アリーチェはニコニコと微笑み、カタリーナは早く起こされた事が嫌なのかつっけんどんに下唇を尖らす。

「んで、アンタの素性について聞こうか。何でアンタが此処にいるか分からないからね」
「此処に居る理由は分かりません。
私の素性、と言われますと、私は日本こと本田菊の妹です。今日の世界会議に出席する為に来ました」
「え?本田菊って誰?日本は本田桜でしょ。それに桜には弟が居るんだけど」
「え?」

椿が力強く机を叩いて立ち上がる。本田桜とは誰か、弟とは誰か、そして此処がどんな世界なのかで椿は混乱して居た。
カタリーナがぶっきらぼうに余りのパスタに手を運ぶ。その姿はロヴィーノ・ヴァルガスそのものだった。

「つまり……?この世界での私は、その弟になるのですか⁈」
「んー?よく分からないけど、日本は本田桜で、弟が居るって事は確かだよ」
「……では、私は本田桜の親戚となります。というか、この世界は私の世界の別次元ですね」
「つまり?」
「私を世界会議に連れて行って下さい!」

アリーチェは軽いノリで「Sì!いいよ、アンタも本田桜に会いたいでしょ?」と頷く。如何やら出席予定のカタリーナもこくんと頷く。

「一つ、御伺いして宜しいですか?」
「え?良いよ」
「今日世界会議に集まるメンバーは、全員男ですか?」
「アハッ、そんな訳無いでしょ!全員女なんだからさぁ!」

椿は予想が当たり、ヘナヘナと椅子に座り込む。何で当たってしまったんだろう、性別が逆の世界だなんて!
カタリーナがパスタを食べ終わると、アリーチェは直ぐに玄関へと走った。カタリーナがその後を追い、椿がその後を追う。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ