Tsubaki's memory
□恋したいなら
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「お早う、椿」
「……イヴァン、さん?どうかされたのですか?」
「ねぇ、僕の国に来てみない?」
「……良いですけど」
其処に師匠が登場。
「な、椿一人なんてあり得ないある‼我も連れて行くよろし‼」
何て事なの。
という事で、観光に行って来ます。
「意外と寒く無いのですね」
「そそそそうあるか⁈結構寒いある‼」
「こんな所で生きて来たから、僕は強いんだよー」
「申し訳御座いませんがそれは関係有りませんよ」
ぺーぺぺぺぺーちかー。
「椿は何を歌ってるあるか?」
「ペチカです」
「ぺーぺぺぺぺーチカ♪」
「イヴァンまで歌うのかある!」
もう一つの曲を聞いた時に泣いたのは内緒ですね。はい。
雪がしんしんと降り積もって居て、ただ轟音が耳元で鳴り響く。
静かな雪が猛威を振るうとこうなるのかな。
「イヴァンさん、目的は何ですか」
「王耀君と君を離す事」
「却下ある」
「いや、本気だよ?王耀君はすこーし何処かで遊んで居てくれれば良いんだけど」
「我は子供じゃねぇある‼」
こんなにどうでもいい喧嘩は初めて見た気がする……気の所為ですよね?
はいそうです、と心の中の兄上が言っているのでそうします。
「……もー、仕方が無いね。行くよ」
「ちょっ、待つよろし!って……」
「ぎゃあぁあ、早いですってばぁ‼」
何か狼に乗せられました。めっちゃ怖いです。はい。すごーく怖いです。
そして、素早いです。
まともに旅行できてませんよ、なんか。
イヴァンさんも悪いんだから……
「……で、目的は何ですか」
「椿はアーサー君の事が好きなんだよね?」
「へぇっ⁈そんな事ありませんよ‼」
顔がかぁっと熱くなるのを感じる。耳まで熱くなって、つい俯いてしまう。イヴァンさんはそれでもニコニコしながら話を続ける。
「もし、僕が君のファーストキスなんて奪っちゃったら、どうする?」
「……斬ります」
「アーサー君じゃなきゃ駄目なの?」
「この際はっきり言います。はい、駄目なんです。約束したんです、英帝様と……」
そう、この前のパラレルワールドで。
「なので、私は誰にも恋などしません。アーサーさんに告白します」
「……そっか。僕はその決意を聞き出す為に君を呼んだんだよ?」
「え?」
「君が、本当に、国と付き合う覚悟があるか、ね」
イヴァンさんはいつもとは違う、暗い表情を見せた。目はきりりと鋭くなっていて、眉を寄せて此方を見据える。
そう、その通り。国と付き合うとはどういう事か、全く考えていなかった。
「君は別の国の出身。もし、いつか菊君がアーサー君と戦ったら?
君は何方を守るの?
それに、君はいくら不死身で、成長が遅く不規則で、国みたいな人間だとしても、君は人なんだよ?」
私がもし付き合うだなんて言ったら、アーサーさんの国に迷惑がかかってしまう。それに、今は同盟のおかげでよく会えるけど、結局は連合国と枢軸国に分かれてしまう。妖精さんが告げる未来は残酷だ。
でも、でも。
私は何方の者では無い。
私は結局、人間だから。
魔女でしか無いから。
「覚悟しています。未来ですら見える私ですし、この先どうなっていくかなんて分かり切っています。
ですが、私は兄上の物ではありません。私は皆様に会う為に世界を旅して、皆様に出会っているんです。
いつか別れを言う時まで、私はアーサーさんと一緒に居たいです。いつか、敵対してしまう日まで」
イヴァンさんはクスリと笑うと、私の手を取った。少し大きいその手は恐ろしい程冷たかったけれど、ほんの少しだけ、温かみを感じられる。
「……アーサー君は幸せだね。いつか敵対した日も、君が居る所為で攻め込みにくくなるね」
「……」
「英国紳士は大変だよ。でも、君が其処まで決意を固めているなら、僕は何も言わないよ。
じゃあ、行こうか」
きっと師匠は怒っているだろう。でも今は、冷たい刃の中に込められた優しい暖かさを、一番近くで感じて居たいんです。
舞台はもう用意出来た。
後は思いを伝えるだけ。
~end~