Tsubaki's memory

□ヒーローに貼り付けた笑顔
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「アルフレッドさん、掃除お疲れ様です」
「いやいや!君もご苦労様だよ!」
「いえいえ。倉庫掃除はしないのですか?」
「……しないよ」

一瞬、アルフレッドさんの物でない想い声に聞こえたけれど、直ぐにゴロゴロ回し始めていた。アルフレッドさんらしくないなぁ、とは思うけれど。

本当に綺麗になって、それは掃除した私も、他の部屋と見違える程。アルフレッドさんのメタボ?な身体がぐるぐる回る度に地震的な何かを起こすけど、まぁ気にしないでおこう。

「では、倉庫を見てもいいですか?」
「いいけど、いろいろと触らないでね……」
「承知」

アルフレッドさんを置いて、倉庫のドアを開けると、中から数々の妖精さんがこちらに向かってきた。

……こちらに?

「ひぃっ⁈どうされましたか⁈」
『かたづけないでぇ‼』
「ご、ご安心ください、片付けはしません。のでお戻りください」

ちょうちょのような妖精さん、自然の香り。何故か古臭いのに新鮮な気もした。
写真も何もない、ただコレクションがたくさんある中に、ぽつんと銃が落ちていた。まだ綺麗で使えそうな、キラキラした雰囲気を持ち合わせている。

「妖精さん、あれは何ですか?」
『だいじなじゅうだよ』
「どうしてですか?……あっ!」

次第に目の前が光り出して、倉庫がぐにゃりと歪んだ。ハチャメチャな空間を破って、雨が降り出す。
そして、気がついた時には、私の知らない場所になっていた。

雨が降って。アーサーさんが銃を向けて。降ろして、座り込んで。
アルフレッドさんも嬉しそうじゃなくて、真っ暗な一日。
アーサーさんはずっと落ち込んでて。アーサーさんは喜ぶようで喜んでなくて。

言うならば、最低な雨の日だった。

「あぁぁぁああああーーっ‼」

発狂してしまいそうな程騒然としていて、アーサーさんの涙は冷たくて、アルフレッドさんは呆然と立ち尽くしていて。
私は叫ぶ事しか出来なかった。

「えっ……ひっ、ひっどい……な、なっ、んで、何で……」
『なかないで』
「だってっ……アルっ……さん……アーサーっ……さ……」
『これはじじつだよ。おぼえておかなきゃだめ』
「う……ん。やっぱり、戦はいけないね。そう、兄上にもお伝えしなくては……」
『そうだよ。だからかたづけないで』
「うん、分かった。絶対に、貴方達の事を忘れない」

倉庫を出ると、アルフレッドさんが俯く私を心配そうに覗き込む。その表情も暗く、明るさなんて感じられなかった。

「……大丈夫かい?」
「はい。大丈夫ですよ」
「いや、顔が青いから……さ」
「……発狂、してしまいそうでした。妖精さんが教えてくれましたよ」
「妖精さん?」

そうだ、アルフレッドさんには妖精さんは見えないのだった。

「……いえ。良い兄を持ったものですね」
「どうかな。 別に、イギリスの事は信じてもないから」
「私は貴方もアーサーさんも……す、好きですよ」

アメリカさんはため息を吐くと、ソファに座る私の隣に座り込んだ。やっぱり背は少し大きくて、お兄さんなんだなぁと思う。

「アーサーの好きな人、知ってるかい?」
「いえ。お聞きしておりません」
「アーサーは、「俺をよく理解してくれて、なんかこう天使とか妖精みたいな無邪気さのある人」が好きらしいよ。
君、ぴったりなんじゃないかい?」
「えっ⁈」

理解出来ている自信も無く、無邪気さも無い。そんな私が認められる筈が無い。
それでもアメリカさんは、私を見て微笑む。

「アーサーの事理解してるんじゃないかな。いっつも付き合ってあげてるし。アーサーと居ると疲れるって皆言うからね」
「そうでしょうか……?」
「料理だって食べてあげられるし、作る。愚痴だって聞きつつ褒めてあげられる」
「は、はい……」
「俺は普段何も言わないんだよね。ヒーローの俺はアーサーなんかに屈しないし」

アーサーさんによく似た、空元気の笑顔。胸が締め付けられて行くような、苦しい空気がこの部屋を占領していった。

「でも、時々はアーサーの所為で大変な事になるから……見守ってやる必要がある思うんだ」
「私は日本人ですから。貴方は……?」
「俺は駄目!絶対にアーサーの前では意地悪したくなるからね」

アルフレッドさんはそう言いながらハンバーガーとポテトとコーラを取り出した。私はファストフードが好きだし、コーラも飲めるから平気なのだけれど、やっぱりシメ鯖と緑茶と白米の方がいい。

「アーサーの、友達になってやってくれよ」
「……貴方が言うのならば、勿論でございます。喜んでお相手させて頂きますよ、アルフレッドさんともアーサーさんとも」

アルフレッドさんはもう一度微笑むと、ハンバーガーを一気に頬張った。コーラの香りがもわもわと私の元に流れてくる。

「それにしても、椿背縮んだかー?」
「なっ!見た目と歳は別ですよ!実際はフェリシアーノさんと同じくらいなんですからねっ!」
「だよな!」

ここで話した話題は、大層ハンバーガーの味がしました。

~end~

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