本棚(銀土)

□大事なものは失って初めて気付く
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----------Side.十四郎----------



今日の務めも無事に終わり、部屋に戻って着流しへと着替える。

明日は非番だ。

ここ半年の日課となっている、例の居酒屋に行く為に屯所を出る。

坂田から借りたマフラーも、返すためにちゃんと持って来た。

今日は仕事が長引いたせいで、少し遅くなってしまった。

時刻は10時を回ってしまったようだ。

坂田はもう酔っ払っているかもしれないな。

いつもあいつは俺が来るのを待っているのか、俺が行くまで酒は飲んでいないのだ。

宇治銀時丼だのとふざけた飯を食ってるだけで、俺が到着すると同時にビールを2人分注文し、乾杯して飲み始めるのが常だった。

でも、今日はもうこんな時間だ。

さすがに飲み始めていることだろう。

居酒屋へと向かう足を早める。

───ガラガラ

妙に派手な音を立てるドアを抜け、いつもの席へと歩みを進めるが…

「…あれ?親父、今日はあいつ来てないのか?」

「坂田さん…ですよね?来てないですよ」

「そうか…」

なんだ…

来てねぇのか…
なんだか無性に淋しい…

…淋しい?何でだ?

たかだかあいつがいねぇってだけだろ?

静かに酒が飲めていいじゃねぇか。

「親父。ビールと…土方スペシャル。後は適当につまみでも頼む」

「あいよ」

いつもの居酒屋。

いつもの酒。

いつもの料理。

だけど…

この喪失感のようなものは何なのだろう…

それに…あの夜の坂田の哀しそうな顔も、ずっと引っかかっている。

何であの時あいつは、あんな顔をしたのだろうか…

まるで今にも泣き出しそうな…

あの夜以来、偶然なのか必然なのか、坂田を昼間街中で見ることもなかった。

今までは、会いたくもねぇのに毎日のように至る所で遭遇していたからな…

「なあ、親父…」

「はい?」

「坂田ってさ、毎日ここに来てるのか?」

ずっと気になっていたことだった。

あいつは俺が来る度、必ずここにいたが、そもそも奴はびんぼーなんだ。

そんな金、どっから出てるんだろうか…と。

一週間に一度くらいの飲み代ならたいしたこともないだろうが、それが毎日となると、結構辛い物があるだろうに…

「え?毎日なんてそんな…坂田さんがここに来るのは、土方さんが来る日だけですよ?そもそも旦那方、約束してここで待ち合わせていたのでしょう?」

「は?」

俺が来る日だけ…?

何だそれ……

いくら思考が似通っていようが、そんなに100発100中なこと、有り得るのだろうか?

「坂田一人でここで飲んでいたことは、ねぇのか?」

「えーっと…旦那方が初めて一緒にここで飲んでからは、確かなかったように思いますけどねぇ…土方さんもですが、坂田さんも元々はうちの常連ではなかったですし。あれからお二人にはうちの店をご贔屓にしていただいているようで…ありがたい限りですよ」

「そうか………」

うーん…これは一体…

その時…だった。

───ガラガラ

居酒屋のドアが、お馴染みの派手な音と共に開いたようだ。

───坂田か?!

俺は無意識の内に、期待を込めて入口の方を振り返っていた……




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