本棚(月影)

□僕の中のちいさな変化
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----------Side.蛍----------



初めて君を見た時…

なぜだか、目が離せなくなってしまったんだ。



それは、中学2年時の、とある大会でのことだった。

僕たちの学校は先程試合に勝利した為、次の試合のある午後までは少しだけ暇な時間となっていた。

その間、休憩がてら、他の学校の試合を見て回ることにした。

1つの試合をちらっと覗いて…あまり興味がわかなかったから、隣のコートの試合を見てみる。

それでもやっぱりあんまり気をひかれなかった僕は、更に足を進めて、今度は向かいのコートで行われている試合を見に行くことにした。

「…あれ……あの、セッター…」

そのコートが視界に入るところまで辿り着いた僕は…途端に……

華麗なトスを上げる1人の少年に、目を奪われてしまったんだ。

―――あいつ…上手い……

あんなどんぴしゃで的確なトスを上げる奴、中学生にいたのか…

でも、多分…僕が彼から目が離せなくなってしまったのは、彼のトスが天才的に上手いからだけじゃない…きっと。

そんなことじゃなくて…

彼の…内からにじみ出るような…なんかきらきらとしたオーラのようなものが…僕を惹きつけて離さないんだ。

ってか、オーラって…僕、何言ってんだろう…

でも、彼が他の人と何かしら違うのは、確かだと思う。



「ツッキー?あのセッター…気になるの?」

突如横から掛けられた声に…僕は情けなくも、飛び上がってしまった。

「あ、ごめんツッキー。驚かしちゃったかな」

なんだ、山口か。

どうやら僕の跡を、ついてきてたらしい。

いつの間にか隣に来ていたようだけど、夢中であのセッターを見ていた僕は、声を掛けられるまで全く気付かなかった。

「あのセッター…北川第一のセッターだから…えと……影山…とび、お…?…って読むのかな、これ…」

訊いてもいないのに、チーム名簿をめくってあのセッターのことを調べてくれる山口。

「ふーん?それ、ちょっと貸して」

山口から冊子を受け取り、ようやくコート上の少年から目を離して手元の紙を見てみると…

―――影山飛雄…か

山口の言うとおり、とびお…と読むのが正しいのかもしれない。

とびお…って…。トビウオみたいじゃね?

そんなどうでもいいことを考えていた僕は、突如上がった一際大きな歓声に、慌てて視線をコートに戻した。

「なに、なんかあったの?」

「うん…あの影山って奴、サービスエース決めたんだよ」

僕の問いに、すぐさま答えをくれる山口。

なんだよ、サーブも上手いのか…?

今度は見逃さないように、北一のセッターこと…影山を凝視する。

「ナイッサー影山!」

北一の誰かのその声の後…

影山から放たれたサーブは…

今回はサービスエースとまではいかなかったものの、相手チームを乱すくらいの威力はあった。

なんとか返ってきたボールは…北一の誰かが影山に綺麗にレシーブして…

「あ、また決まった」

やっぱり、北一のスパイカーがどうこうよりも、相手のブロッカーがどうこうよりも…確実に影山の上手さが際立っている。

「ツッキー…上手いね、あいつ」

「ああ…」

その後も、飽きもせずずっとその試合を見ていた。

山口がなんだかんだと話し掛けてきたけど、僕は影山のことを見るのに必死でいちいち言葉を返すのも面倒くさかったから、ほとんど無視していた。

山口も何かを察したのか、少しの後にやっと静かになってくれたけど。



「…終わった…」

「北一の圧勝…だね」

そう、結果は北一の圧勝。

実力差は圧倒的だった。

だけど…勝ちは途中で決まったも同然の試合だったのに、影山は、途中でボールを追うのを諦めたチームメイトに容赦ない罵声を浴びせていた。

それは傍から見ていても、追っても取れそうもないボールだったのだけど。

影山は、チームメイトの途中で諦めたその態度が、気に喰わなかったらしい。

―――たかが1点で…何をそんなにまじでキれてんだよ…

どうせ圧倒的勝利なんだから、1点くらいであんなムキになるなんて…あいつの思考は僕には到底理解できそうもない。

だけど…

だけど、いつもだったら、「ばかみたい」の一言で終わらせる僕なはずなのに…

今回ばかりはなぜか…

君の、前だけを…上だけを見据える、その強い強いまなざしから…

―――目が、離せなかったんだ




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