短編

□事実
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会場に着いてから奈和は無言のまま、あいりんに甘えているなな子をずっと見つめていた。

あの子が先輩のことを異常に好きなのはみんな知っていることだ。

他のメンバーも一緒に楽しそうに組んだりするけど、奈和は違う。

特に、この日のような時。



チームKのリハーサルからSKEの会場へ急いでいたのに、

大好きな友達は他の人とイチャイチャしてて

自分が帰ってきたのを全く気付いていない。



「あっ、なお!もう帰ってきたの!!」

あまりの声の大きさに驚いて奈和はあちらを振り向いたとたん、

息ができないくらい梅本まどかに強く抱きしめられた。

数秒後、ちょっとやり過ぎだと思ってまどかは恥ずかしそうな顔をして奈和から離れた。



「ごめん、久しぶりだったからね」

「ううん、大丈夫」

そう言って奈和はちょっと笑顔に変わった。



まぁはいつも明るく話してくるし、

本当に気が利く人で大好きだ。

あの人と全然違うんだなーって



奈和は密かにそう思った。



まどかの大きな声のせいで周りのメンバーに注目された。

奈和は思わず自分がムカついてる原因の人を探してたら

すぐ目が合った。

最初はちょっと驚いた顔をしてたけど、奈和が帰ってきたのを気付いて

大きな笑顔で元気に手を振り出した。



なのにわざとなな子のことを無視して奈和はまたまどかに振り向いた。



「ねぇー、なおはさぁ…」

「ん?」

「なな子に怒ってる?」

「えっ!? べ、別に怒ってないよ。なんで?」

「なな子、なおにすっごい手を振ったのに、それを完全無視したんじゃないか!

さっきも一人だったし…っていうか昔はずっと二人一緒だったでしょ?」

まどかがこんなに観察できてたなんて思わなかった奈和が思わず口にした

「そう、昔ね。でも今あの子がとある先輩にくっつきまくってます」

自分の頭を叩きたいほど奈和はすでにこんな衝動的な言葉を後悔している。



そう言ってから少し沈黙が続いた。



「えっと…でもさー、なおがもうちょっと近付いていたのなら
なな子はきっと話してきたと思う!
なお何も言わなきゃ気付かれないもん!」

「…」

「あら、あらら!」

急に笑いながらまどかはもう全部分かったように見えた。

「なおはヤキモチやいてるのかしら?」



その言葉を聞いた瞬間、

「違うんだよ!!!」

とデカい声で叫び、奈和は爆発したようにパイプ椅子から立ち上がった。

そしてまた周りから注目された。



「…ちょっとトイレ行ってくる」
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