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□微香性のクレーション
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「この花、いい匂いだね」
「あっ、それ、クレーションなんです。 毎朝アロマオイルを垂らしてるんですよ」
僕はクレーションが何なのか、頭のなかを探った。……でも、答ははじき出されなかった。そしてななしに尋ねた。
「クレーションって何?」
するとななしは少ししゅんとした顔で、
「造花ですよ。最近クレーションってよく呼ぶので。分かりづらかったですよね、ごめんなさい」
と言った。
別にななしが悪いわけじゃない。ただ僕が無知だっただけだ。先ほどのやり取りにしゅんとしているななしは長い睫毛を伏せていて、不覚にも美しいと思ってしまった。
「……あのさ……」
少し驚いたようにぱっとこちらを見るななしに、この花、僕にも作ってくれないかな?と呟くと、ななしは嬉しそうに、喜んで、と言った。
「よかった、しゅんとさせちゃったみたいだから」
「そんな……芹沢さんは悪くないです」
少し潤いを帯びたななしの瞳に、どきりとする。
「そ、そんなことないよ。それよりさ……」
「……?」
「こんなタイミングで悪いんだけど……結婚してほしい」
「えっ…!?」
「僕たち、付き合って結構経つでしょ?だから、そろそろいいかなって思って。 指輪、受け取って貰えるかな」
「……っ、喜んで、っ」
「泣かないで。これからはずっと一緒にいられるんだから」
ありがとうございます、<慶二さん>と、今までとは違う変化に、喜びを覚える芹沢だった。