兎耳のアイリス
□その3
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「呼っばれて飛び出てニャニャニャニャ〜ン!!初めまして、白ひげ海賊団のアイドルミラちゃんだよ〜っ!あ、なんでジャジャジャジャ〜ンじゃ無いかって言うと、ニャの方が可愛くてアイドルっぽいからだニャン!」
いつの間に前に出たのか、背に隠していたサッチとは裏腹に、ミラはイゾウの目の前にアホな台詞とともに現れる。サッチは自分が見ていたのとは正反対の方向から聞こえた声に、「えっ!?」とリーゼントが乱れる勢いで振り向いた。そしてその視線の先で、さらなる驚きの光景を見る事となる。
「…………。」
――――げしっ。
「ぎゃふん!!」
目の前に現れたミラを無表情のままに見つめていたイゾウは、あろうことか手刀でミラの脳天にチョップをかましたのだ。
実体を持たない、幽霊であるはずのミラに。
これには端で見ていたマルコですらも驚いたらしく、普段は半開きの目をまん丸に見開きあんぐりと大口を空けて二人を見つめ固まっていた。
また、チョップをくらったミラ本人も盛大に驚いた様で、頭に片手をあてたまま呆然とイゾウを見上げている。
「イゾウ、お前ェ……」
いちはやく冷静さを取り戻したマルコがそう呟いた事で、ミラ本人も我に還る。彼女はバッと顔を上げるなり叫んだ。
「アイドルを殴るとか、あり得ないぃっ!!」
「うんいや、あり得ないのはそこじゃ無いってんだよ。」
「だって、サッチさん!今の見たでしょ!?頭だよ頭!バカになったらどうすんのさ!」
「大丈夫だよい。お前ェに限ってその心配は無ェよい。」
子犬が吠えるようにキャンキャンと騒ぐミラに、サッチとマルコは的確なツッコミを入れる。とは言えマルコの台詞に関してはミラは自分に都合が良いように捉えたようで、「え?そう?」と弛んだ顔で照れているが。
「……漫才はそれくれェにして、聞きてェ事が有るんだがねェ。」
やがて、延々続きそうな下らないやり取りを端で黙って聞いていたイゾウが、僅かに額に青筋を覗かせながらそう言った事で一先ず現場は落ち着いた。
イゾウは些か憑かれた、いや疲れた様に息をつくと改めて話を切り出す。
「嬢ちゃん、お前ェは」
「ミラだよ!」
「……………。」
「ミラっ!!」
「はぁ……分かった、ミラ。お前ェはいわゆる『妖し』で間違い無ェんだな?」
さっさと話を進めたいのに、どうもこのミラという少女は一筋縄ではいかない面倒な相手らしい。そう思ったイゾウは、仕方なしに自身が折れてでも話を進める事を選択した。だが、このミラという少女はイゾウが思っている以上に厄介な相手である事を、彼はこの後知る。
「『あやかし』ってな〜に?」
「あー……あれだ、『幽鬼』やら『亡者』やらの類いだ。」
「『ゆーき』?『もじゃ』?それ、可愛いって事??」
「…………。」
「……俺を見んなってんだ。」
「知らねーよい。」
ミラのあまりにもあまりな回答に、イゾウは無言で幽霊も真っ青な程に怨嗟の籠った視線を男二人へと向けた。
言うなれば、
『なんだ、「コレ」は。』
と訴える視線である。
だが、サッチとマルコですらミラと知り合ったばかりで彼女については詳しく知らない部分が多いし、大体アホのオツムの中身など知りたくもない。
「ね〜ね〜、可愛いなら素直にそう言ってもいいんだよ?なんたって、私アイドルだし!!」
「「「…………はぁ。」」」
一人受かれて浮かれるミラを他所に、男三人はその背にわずかに哀愁すら背負いため息をついたのだった。
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